野球のスイングで近年良く言われるのが、「レベルスイング」の重要性です。
昔のアマチュア野球界は、「ダウンスイング」という教えが一般的でした。
ゴロを打った方が、相手守備陣の「捕る・投げる」という工程を踏む中でエラーや内野安打も期待できるという考え方も一因です。
しかし最新の理論では「フライボール革命」と言って、要はゴロよりもフライを狙うような感覚でバッティングした方がヒットの確率が高いという理論が提唱されました。
これにより、レベルスイングという打撃の際のスイング軌道が推奨され、プロを含め野球界にも広く浸透しているところです。
そこで今回は、この「レベルスイング」とはどのような軌道のスイングなのか、どうすればレベルスイングを習得できるのか紹介していきます。
レベルスイングとは
3種類のスイングを紹介してきましたが、ここで最も大きなテーマであるレベルスイングについてもう少し詳しく見ていきましょう。
- ダウンとアッパーの中間
- レベルで振るのは難しい
- 空振りの確率が下げられる
- 打球が飛びやすい
レベルスイングは特にホームベース上でのスイング軌道が地面(ピッチャーのボールの軌道)と水平になっている点で、空振り率が低くなると言えます。
例えば、投手が捕手に投球するときのボールの軌道を横から見ると水平に近いはずです。
そこに極端なダウンスイングをしてしまうと、ボールが来る軌道に対してコンタクトできるポイントが一点になってしまいます。
対してレベルスイングで投手の球を迎えることが出来れば、ボールを「線」で捉えることが出来るのでミートポイントが増えるわけです。
ただ、完全なレベルスイングを習得するのは技術と練習が必要で、すぐに身に着くものではありません。
鏡や動画などで自分のスイング軌道を確認して、調整していく必要があります。
また、近年ではアメリカのメジャーリーグで盛んに行われているデータ解析によって、最も長打が出やすい打球速度と打球角度が割り出されました。
簡単に言えば、確率的に最もヒットになりやすい打球とはどんな打球なのか?
ということです。
ヒットが出やすいというバッターにとって理想的な打球角度のことを「バレルゾーン」と言います。
実際には打球が放たれる角度だけでなく、打球速度の要素も加わってバレルゾーンが変化するわけです。
バレルゾーンを大まかにいうと、だいたい上方向に30°くらいの角度で打球が放たれると、ヒットになりやすいという計算になります。
このバレルゾーンに打球を入れるには、レベルスイングからアッパースイング寄りの軌道が必要であるということも分かっています。
これもあって、今まで日本で広くバッティングの基本とされてきたダウンスイングの常識が見直され、レベルスイングの重要性に焦点が当たるようになったのです。
スイング軌道の種類
野球のスイングは、大きく分けると3つに分類されます。
- レベルスイング
- ダウンスイング
- アッパースイング
ひと昔前の野球界では、多くの指導者がダウンスイングを教えていたものです。
逆に、アッパースイングは悪だとされてきました。
それぞれのスイング軌道の特徴を整理しておきましょう。
レベルスイング
レベルスイングとは、バッターのスイング軌道がピッチャーの投げるボールの軌道に対して水平になるようなスイングです。
打者を横からみたときに、ベースの上でバットが直線の軌道で通ります。
ピッチャーが投じたボールがキャッチャーミットに収まるまでの軌道に対して、真正面からバットを出すことが出来るのも特徴です。
ボールが来る延長線上にバットを出せるため、多少タイミングがズレていても空振りする確率は少なくなります。
ダウンスイング
ダウンスイングとは、バットを振り始めてからミートするまでの軌道が下方向に向いているスイングのことです。
トップからインパクトまでの軌道が斜め前に下がっているため、重力を味方につけたスイングができるという特徴があります。
ボールの上を叩けば高いバウンドのゴロになりやすいですし、ボールの下を叩いた場合はバックスピンがかかってノビのあるライナーになりやすいでしょう。
しかし、軟式球でダウンスイングをしてしまうと、ボールが潰れてポップフライになるか弱い打球になってしまいます。
確実にゴロを打ちたいときはダウンスイングが良いですが、普段のバッティングフォームからダウンスイングにするのはあまりオススメできません。
レベルスイングに比べてボールを捉えることができるポイントが少ないので、空振りの確率も高まります。
アッパースイング
アッパースイングとは、スイングの始動からインパクト、その後のフォロースルーの軌道が上方向に向いているスイングのことです。
ゴルフのスイングに近いようなイメージをしていただければ、わかりやすいと思います。
アッパースイングは感覚的には下から振り上げる形になるので、高めの球を捉えるのは難しいです。
どちらかというと、低めに来たボールをすくい上げるようなときにアッパースイングになります。
もちろんアッパースイングはフライを打ちやすいですし、近年増えてきた打者の手元で微妙に動きながら落ちる変化球にも対応しやすいという利点があります。
もしボールの上の方を叩いてしまうと、打球にトップスピンがかかります。
ドライブボールのように、ライナー性の力強い打球でも急激に落ちていくことになるでしょう。
レベルスイングのメリット
レベルスイングには実は大きなメリットがいくつか隠されています。
一つずつ見ていきましょう。
- 空振りをしにくくなる
- バレルゾーンに打球を入れやすくなる
- 流し打ちの打球が強くなる
- 変化球に対応しやすい
空振りしにくい
レベルスイングで最も大きなメリットと言えば、やはりボールを線で捉えられるということでしょう。
ピッチャーのボールの軌道に対して、その延長線上にバットを乗せられれば空振りする確率は大きく下がります。
バッティングで最も大切なのはタイミングですが、レベルスイングが出来ていればタイミングが外れていてもボールに当てることが可能です。
空振りではなくファールで逃げることが出来るので、相手ピッチャーの球数を投げさせることにも繋がるでしょう。
特にツーストライクに追い込まれた後にも、レベルスイングが出来ていれば打率はアップします。
バレルゾーンに近づく
バレルゾーンは前述したように、最も安打になる確率が高い打球角度のことです。(実際には打球の速度によって角度は変化する)
バレルゾーンに限りなく近い形で打球を飛ばすには、レベルスイングに近い軌道でバットを振る必要があります。
具体的には水平方向を0°とすると、19°の角度でバットを振ってボールの中心をミートしたときに理想的な打球角度になります。
19°のアッパースイングということですが、見た目にはほぼレベルスイングに見えるはずです。
逆方向に強い打球が打てる
レベルスイングが出来ていれば、打つポイントを遅らせても力強い打球が打てます。
そのため、一般的に打球の強さが弱くなりやすい逆方向へも長打が出やすくなるのです。
いわゆる「広角打法」と呼ばれるような、レフトからライトまでどこでも長打が打てるという選手は非常に重宝されます。
相手バッテリーからしても、攻めにくい打者となるでしょう。
変化球に対応しやすい
レベルスイングはスイング軌道がピッチャーのボールに近いので、変化球にも対応しやすいです。
野球にはホップする変化球はありませんから、基本的に全ての変化球は下方向への変化が加わっています。
特に近年メジャーリーグを中心に全盛となっている、ツーシームなどの細かい変化をする変化球も増えてきました。
一見ストレートに見えるような変化球に対応していくためには、ミートポイントが広くとれるレベルスイングに近づけていく必要があるのです。
レベルスイングのデメリット
- 習得するのが難しい
- 同じスイング軌道を維持するのも大変
レベルスイングは、上手くできれば基本的にメリットしかないと考えて良いでしょう。
しかし、そもそもレベルスイングをマスターすること自体が難しいという点がデメリットになるかもしれません。
よく野球界では「打線は水物」とか「バッティングは水物」と言ったりします。
その日の身体の調子によって、スイング軌道やバッティングの感覚は変化するものなのです。
レベルスイングに矯正する練習方法
- スタンドティーバッティング
- タオルスイング
- 8の字スイング
スタンドティー
ティースタンドにボールを置いた状態で打つ練習です。
このボールをしっかり前に飛ばすには、ダウンスイングでは捉えられません。
しかも、この置きティー状態で流し打ち方向に打つとすれば、レベルスイングからアッパースイングに近い軌道が必要になります。
これで自然とレベルスイングが身体に染みつくわけです。
タオルスイング
この動画の掛布さんはホースを使ってレベルスイングの練習をしています。
ホースが無ければ、タオルの先端を縛って重りにすれば同じような練習が可能です。
ポイントは、左右にスイングすることと、おへその前で手首を返すことですね。
左右にブンブンと振る練習なので、レベルスイングでバランスの良いスイングが出来ていないと身体がブレてしまいます。
8の字スイング
これは、上記のタオルスイングを実際のバットで行う練習です。
実際のバットで左右にブンブンと繰り返し振ると、かなり身体に重さがかかります。
そこで体幹がブレないようにスイング出来れば、自然とレベルスイングが身に着くのです。
手首を痛めないように注意して、何度か8の字スイングを行ったら実際にティーバッティングなどで打ってみましょう。
レベルスイングのプロ野球選手
- 青木宣親選手
- 柳田悠岐選手
- 古田敦也氏
青木宣親選手
現在のプロ野球でお手本のようなレベルスイングをしているのは、メジャーリーグでも活躍した現ヤクルトスワローズの青木宣親選手です。
ポイントは、グリップ(トップ)の位置が低く、そのまま投手が投げるボールの軌道に合わせてレベルスイングをしているところとなります。
柳田悠岐選手
ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手は、一見するとアッパースイングのように見えます。
しかし、スイングの瞬間にはグリップを下げ、ほぼレベルスイングに近い形でスイングをしているのです。
これが、パワーだけでなく高打率を残せる秘訣になっているのでしょう。
古田敦也氏
古田敦也さんは、今でもプロ野球歴代の最強捕手として名前の挙がる人物です。
キャッチャーとしての守備能力だけでなく、首位打者を獲得して通算2000本安打を放った打撃能力も持ち合わせていました。
やはりアッパースイングやダウンスイングではなく、レベルスイングを推奨しています。
レベルスイング矯正の注意点
レベルスイングを意識する上で、同時に注意しておいた方が良いポイントもあります。
バッティングは気が付かないうちに崩れてしまうものなので、絶対に押さえておくべきポイントも把握しておきましょう。
- ドアスイングにならないように
- 前の肩が下がりすぎないように
主に上記の2点です。
レベルスイングに矯正しようという意識が強すぎると、スイングの軌道だけに気持ちがいってしまいがちです。
そうなると、ドアスイングといって、バットのヘッドが遠回りして出てくる悪いスイングになってしまいます。
そうではなく、「インサイドアウト」といって、バットのグリップ側からピッチャー方向に向かって出てくるスイングを心がけましょう。
その方がパワーが伝わりやすいので強い打球が打てます。
また、普段ダウンスイングの野手がレベルスイングを意識しようとすると、前の肩(右打者なら左肩、左打者なら右肩)が下がりすぎてしまうこともあります。
こうなると身体の回転が上手く使えず、スイングスピードが落ちてしまうわけです。
頭や目線もブレてボールをミートするのも難しくなるので、スイングが崩れないように注意してくださいね。
まとめ:レベルスイングが打撃の基本
- レベルスイングは空振りしにくい
- バレルゾーンに入りやすい
- 流し打ちも上手くなりやすい
- 変化球に対応しやすい
- 置きティーの練習が有効
- ドアスイングに注意
レベルスイングの定義や、レベルスイングを習得する練習方法についてご紹介してきました。
スイングの軌道が変わるだけで、安打の確率は大きく変わります。
空振りの数が減れば出塁のチャンスは増えるので、打率をアップさせたい人はぜひレベルスイングの練習に取り組んでみてくださいね。