イップスとは、野球をやっていれば一度は耳にする言葉なのではないでしょうか。
実際にイップスになってしまうと、素人でも出来るような短い距離の簡単なキャッチボールすら困難になってしまいます。
プロ野球選手でも、こんなイップスに陥ってしまうことがあるのです。
最近では、藤浪晋太郎選手もイップスの疑惑がささやかれていますよね。
では、そもそもイップスの原因とは何なのでしょうか?
めっちゃ気になるわ。
投手でも野手でも関係なく起こってしまうイップスについて
- 原因
- 症状
- きっかけ
- やってはいけないこと
- 改善方法
- 具体的な練習方法
- 周りの配慮
をまとめました。
イップスとは?
イップスとは野球に限らず、精神的な面を含むある原因によって、自分の思い通りの動作が出来なくなってしまうことを言います。
最初からイップス状態になってしまっている選手はおらず、あるきっかけによって急にイップスを発症することがほとんどです。
- 野手の場合は10メートルにも満たない距離が上手く投げられず、大暴投になってしまうということもあります。
- 投手の場合、ほとんどストライクが入らない、または右バッターに対してのみ全くストライクが入らないなど、多様な症状になるでしょう。
いずれにしろ、一度イップスに陥ってしまった場合、治すのは簡単なことではありません。
今まで何も考えずに難なくこなしていた動作が、イップスになるとまるで病気にかかってしまったかのように出来なくなってしまいます。
野球で起こるイップスの多くは投げることに関してですが、打つことや守ることに関してもイップスは起こり得るわけです。
例えば
- 内野フライが上がると脚が動かない
- 左投手に対してバットが振れない
といったこともイップスに含まれます。
何でそんなことになるんやろ?
局所性の「ジストニア」と表現されることもあり、認知性の一種の病気のような括りと捉えられることもあるでしょう。
イップスの原因
イップスの原因は、人間の脳の仕組みに関係しています。
- 脳が危機的状況に陥る
- メンタルバランスによって筋肉が硬直する
イップスのメカニズムは、主にこの2つのポイントで説明することが可能です。
人間の脳は、目の前で何か危ないことや危機的な状況が起こった時に、身体に対してある指令を出します。
それが主に
- 戦闘モードにする
- 全力で逃げる
- 筋肉を硬直して守る
この3つの選択肢に分かれます。
この3つの指令の中から肉体に対して指令が出され、それに基づいて身体が動くようになっているのです。
例えば・・・野球の試合や練習の中で、自分がピッチャーをやっていたとしましょう。
目の前にバントのボテボテのゴロが転がってきて、ファーストに送球したところ、ボールが上に反れて悪送球になってしまいました。
怒られるというのは、一種の「危機的状況」でもあるわけです。
すると脳が、また同じようにボテボテのゴロを捕球してファーストに投げる場面がやってきたときに、「危機的状況」としてその場面を判断するようになります。
その際に、3つ目の選択肢である「筋肉を硬直して自分を守る」という指令を出してしまうわけです。
すると身体が上手く動かなくなって、同じように悪送球になってしまいます。
これがイップスのメカニズムなのです。
イップスが発生するまでのフローをまとめると
- 一度何か失敗をする
- 同じ場面を、脳が「危機的状況」と認識する
- 外部から自分を守るために「筋肉を硬直」させる
- スムーズな動作が出来なくなる
- イップスに陥る
ですからイップスを突き詰めていくと、「脳の誤認」とすることもできるかもしれません。
イップスの症状
野球におけるイップスは投げることにフォーカスされがちですが、実はあらゆるプレーの中にイップスが発生する可能性が潜んでいるのです。
具体的には以下の様な症状が野球では見られることがあります。
- 短い距離の送球がひっかかる
- キャッチボールですら頭の遥か上に抜けてしまう
- バント処理のようなボテボテのゴロが捕れない
- 右打席(または左打席)のバッターにコントロールが定まらない
- 余裕のあるファースト送球が出来ない
- キャッチャーからピッチャーへの返球が出来ない
- 外野から中継までノーバウンドで放れない
- バックホームのときだけ正確に送球できない
- 内野フライが全く捕球できない
- 外野フライが来ると足が止まる
- 目の前に来るゴロを必ず弾いてしまう
- 左ピッチャーを相手にするとバットが振れない
- 特定のピッチャーに対して、打撃フォームが狂う
- バントをしようとすると膝が曲がらない
ここに列挙した以外にも、野球のプレーの中でイップスによって急に出来なくなってしまうことはいくつもあるのです。
練習しているのに上達しないのではなくて、一度出来ていたものがあるきっかけによって急に出来なくなるのがイップスの怖いところです。
アマチュア野球のプレーヤーはもちろん、プロ野球選手でもイップスになる可能性はあります。
イップスになってしまう人が、その特定の動作をするときの感覚としては
- ボールが手に引っかかる
- 自分で動きが制御できない
- 投げ方がわからなくなった
- リリースするときの感覚が無い
- 身体に力が上手く入らない
- どうして相手にボールが届かないのかわからない
という具合で、自分ひとりの力だけではイップスを克服するのは難しいということがわかります。
イップスのきっかけ
イップスが発生するきっかけは、ある程度、以下の5つに絞ることが出来ます。
- 暴投をした後
- イージーボールの補給エラー
- フォームの変更後
- 肩や肘を故障してしまった
- 長期間のオフ後
暴投をした後
イップスの最も発生頻度が高いと言えるのが、暴投の後です。
それもギリギリのゲッツーを取りに行くときや、体勢を崩して何とか捕球した後など間一髪のプレーではなく、何でもないイージーな場面での暴投で起こります。
バント処理の際にファーストに落ち着いて送球するときや、強い内野ゴロを正面で捕って、アウトにするまで比較的余裕があるケースです。
これらは野球の試合の中でもよくある場面なので、イップスに気が付きやすいということもあるでしょう。
イージーボールの捕球エラー
ほぼ低位置に飛んできたような外野フライや、内野フライ、一定のバウンドでくる緩いゴロなど、普段野球をやっている人なら簡単に捕球できるような打球です。
これをエラーしてしまったことで、イップスになるケースも考えられます。
しかも、そのエラーで緊迫したゲームの1点を取られてしまったとなれば、メンタル面のダメージはかなり大きくなりますよね。
打球を待って取るという性質上、筋肉も硬直しやすくイップスが発生しやすいのかもしれません。
フォームの変更後
これは特にピッチャーのイップスで起こり得る状況です。
投球フォームを修正または変更した後、制球が定まらず打者にデッドボールを当ててしまったとしましょう。
そうすると、また同じ方向の打席に入る打者に対して、コントロールが定まらなくなってしまうのです。
脳は、目から入ってくる情報によって影響を受けやすいという性質があります。
一度ミスしてしまった同じ打席に人が立っていると、脳がデッドボールを当ててしまったときのフラッシュバックを起こして、筋肉の異常な緊張を引き起こすのです。
肩や肘を故障してしまった
イップスが起こるのは、「また同じ経験をしたくない」という回避行動から起こると見ることも出来ます。
肩や肘をケガしてしまうと、投げるときに痛みを感じるわけですよね。
そのリハビリが長引いて復帰までの道が険しくなったとすると、再びボールを投げるときに「また痛くなるんじゃないか」という気持ちや痛みが出たショックが、無意識に筋肉を異常な緊張に導くことがあります。
故障をきっかけにイップスに陥ってしまうこともあるのですね。
長期間のオフ後
これはイップスの中では稀なケースかもしれませんが、長期間野球の練習をしなかった後にイップスになってしまうケースも考えられます。
プロ野球選手でそういったことはほぼ起こり得ませんが、趣味の領域で野球を楽しんでいる場合にはこういったイップスが起こってもおかしくありません。
今まで無意識に出来ていたことが、どのように腕や足を動かせば良いのか見当がつかなくなってしまうのです。
ぼくだったらめっちゃ焦って、練習して練習して、パニックになりそうや。
イップスでやってはいけないこと
イップスに陥ってしまった場合、焦って治そうとするのは逆効果になります。
一見すると良さそうな練習でも、イップスの症状悪化させるケースもあるので、気を付けてください。
ここではイップス改善でありがちな、避けた方が良い練習として
- 強引な遠投
- 過度な修正練習
- 近い距離のネットスロー
- シャドーピッチング
などがあるので、一つずつ確認していきます。
強引な遠投
イップスの選手が強引な遠投をするのはダメです。
短い距離が投げられなくて、長い距離なら問題なく投げられるという場合ならまだ良いでしょう。
しかし、バックホームやマウンドからのピッチングなど、ある程度の距離でイップスが発生している場合は避けた方が良いです。
無理なフォームで投球することになるので、結局良いボールが行かずに「失敗体験」を積み重ねてしまうだけになってしまいます。
過度な修正練習
投げる動作でのイップスでやりがちな練習方法が、投げるときのトップの位置だけをひたすら繰り返すなど、細部に集中しなければならない練習です。
腕の先など細かい部分に意識を集中させなければならない練習をいきなり行うと、かえってぎこちない動きになってしまいます。
近い距離のネットスロー
ネットスローはイップスの定番練習とも言えますが、実はイップス改善に直接的な効果があるわけではありません。
ネットスローは手軽に反復練習が出来て良い側面もありますが、イップスの期間に限ってはそうではありません。
そもそも正常な動作が出来ていないのに、その状態で反復練習を行うのは意味が無いのです。
イップスの間違った筋肉の使い方が定着してしまうだけで、まだまだ反復練習は必要ありません。
シャドーピッチング
シャドーピッチングも、イップスの状態においてはデメリットも大きい練習です。
シャドーピッチングは鏡を見ながら行えるので、フォーム固めに使えるかもしれません。
しかしイップスの場合は、局所的な部分を細かく確認しながらフォームを組み立てていくことで、逆に身体の動かし方がわからなくなってしまうこともあるのです。
イップスで避けるべき要素
ここまでのことを整理していくと、イップスの改善には避けるべきポイントが2つあります。
- 過度な細部の意識
- 過度な反復練習
イップスの症状が出てしまう原因は、身体の一連の流れが再現できなくなっていることです。
身体の各部分が流れるように連動するから今まで通りのことが出来るのであって、いきなり一つ一つの局所部分を個別に改善して繋げられるような単純なものではありません。
また、イップスによって起きている間違った身体の使い方のまま反復練習をやり過ぎると、正しい身体の使い方に戻していく妨げになります。
イップスの克服を遅らせないためにも、逆効果になることは止めましょう。
イップスの改善方法
イップスを改善する方法には以下の方法があります。
- 心地いい動きを探す
- 環境を変えてみる
心地いい動きを探す
まずは心地の良い動き方を探すところから始めていくべきです。
イップスの場合、野球の全ての動きが出来なくなっているわけではありません。
短い距離のスローが苦手になってしまった場合は、ある程度距離を取った状態でのスローを確認します。
右バッターに対する投球が不安なら、まずは左バッターまたはブルペンで捕手のみを相手にして投げ込みます。
出来ない「失敗体験」を積み重ねると余計に悪循環になるので、出来ることすなわち「成功体験」を脳にインプットさせることも重要です。
環境を変えてみる
イップス改善において、環境を変えることも良い方法です。
例えば投球系のイップスなら、一度ノースロー期間を確保して、ボールを握る頻度を減らしてみることも良いでしょう。
また、ポジションをコンバートするのも良いです。
内野であったなら、外野に回ってみるなど、環境が変わるだけでプレーの活きが戻ってくる場合もあります。
イップス改善の練習方法
イップスを改善する練習方法は、自分で試してみて合いそうだと感じたものを取り入れてみてください。
全ての方が同じようなイップスに陥っているとは限らず、その人によってイップス発生までの経緯や症状はそれぞれのはずです。
例えば・・・
- バックステップ
- ノールックスロー
- 片足スロー
- ボールを強く握ってから投げる
- グローブを叩いてから投げる
なんかはオススメです。
バックステップ
一度、後ろに「ピョンッ」と飛んでから投げる練習方法です。
投げるイップスになってしまうと、どうしても腕の動き方や手首の使い方に意識がいってしまいます。
下半身を使って腕が勝手に前に出てくる感覚を掴めれば、イップス克服に繋がるのです。
ノールックスロー
本来は、投球する相手をしっかり見ながら投げますよね?
ところがイップスの場合は、目から入ってくる情報で以前の記憶がフラッシュバックしてしまうことで引き起こされます。
投げる方向を一度確認したら、あえて顔を別の方向に向けて目を切ります。
そこから再び投球することで、目から入ってくる情報をあえて変え、脳を「ダマす」というやり方です。
片足スロー
右足でも左足でも良いので、片足一本で立ちます。
浮かした足を前後にブラブラと揺らしながら、ボールを投げるのです。
イップスで取り戻さなければならないのは、重心の動かし方と身体全体の連動のコツです。
片足であえて身体を揺らしながら投げることで、重心の感覚や上半身と下半身の連動の感覚が蘇ってくるかもしれません。
ボールを強く握ってから投げる
投げる前にボールを一度「ギューッ」と力強く握ります。
3秒くらい握ったら、力を抜いてボールを投げるのです。
これは筋肉の仕組み(等尺性収縮後弛緩)を利用したリラックス方法で、イップスで発生している筋肉の緊張を取り除くのが目的になります。
一度力を強く入れたら、ちゃんと脱力してから投げるのがポイントです。
グローブを叩いてから投げる
イップスは、一度ミスを犯した状況に酷似した状況が作られたときに発生します。
ですから、いつもと違う流れで動作を行うようにすれば良いのです。
簡単に出来ることでは、投げる前にグローブを3回くらいパンパンと叩いてから投げる方法があります。
このちょっとしたひと手間が入るだけで、普段とは違う流れになって、イップスを抑制することに繋がるのです。
イップス選手への周りの配慮
イップスを治していくには、周りの人達の配慮も必要です。
チームメイトはもちろん、監督コーチなど指導者側の選手への対応も重要な要素になります。
イップスを早く克服させ、再発させない環境を作るには2つのポイントを意識してください。
- ミスをある程度許容する環境づくり
- 結果主義ではなく、過程も評価する
人間の脳は、否定形を認識できないと言われています。
例えば「三振しないようにしょう」と呼びかけたところで、それを避けようと意識すると、脳が勝手に「三振している自分」をイメージしてしまいます。
身体は脳のイメージに引っ張られやすいので、余計に三振しやすくなってしまうのです。
だから、「もう暴投するなよ!」と言われるよりも、「上半身あたりに投げよう」と言われた方が成功しやすいはずです。
また、
- 三振しても良いからフルスイングだ!
- フォアボールでも良いからしっかり腕振れ!
と言ってもらった方が、ある程度の失敗を許容できる環境作りになり、結果だけでなく次につながる過程を評価できるチームカラーになります。
それが主力選手のイップスを早く克服することに繋がり、他のイップスを増やすことの予防にもなるのです。
まとめ
イップスは、自分ひとりの力で克服するのは難しい症状です。
すぐには良くならないかもしれませんが、確実に改善できます。
- 過度な反復練習を避ける
- 部分的な修正練習はしない
- いつもと違う動きを取り入れる
- 環境を変える(コンバートなど)
- 失敗を許容する環境作り
- 否定形ではなくポジティブイメージの声掛け
これら周りのチーム環境も見直して、全員でイップスに立ち向かっていけたら良いですね。
イップスは単に気持ちの弱さやメンタルの病気というわけではありません。
出来ないことばかりに目を向けるのではなく、今自分が出来ることを一個つずつ積み重ねることが、イップス克服の近道になりますよ!