ギャンブルスタートは、全てのチームが取り入れているわけではありませんが、どうしても一点が欲しいときに行う作戦です。
プロ野球でも、日本シリーズやクライマックスシリーズなどの短期決戦でしかほとんどお目にかかれないでしょう。
そんな発生頻度の低いギャンブルスタートという作戦ですが、知っておくと僅差の試合で役に立ちます。
そこで今回は、ギャンブルスタートとはどういった作戦なのかについてご紹介していきます。
ギャンブルスタートとは
ギャンブルスタートとは、ランナーが3塁にいるときに発動される作戦です。
発端としては、かつてヤクルトスワローズなどで監督を務めていた野村克也さんが考案した作戦だと言われているようですね。
バッターがピッチャーの投球をバットに当てたことを確認したら、どんな打球であってもホームに突っ込むというのがギャンブルスタートになります。
ノーアウトやワンアウトの状況であれば、3塁ランナーはライナーバックやフライが上がったらタッチアップに備えるはずです。
しかしギャンブルスタートの場合、バットに当たった瞬間ホームにダッシュします。
普通に打球判断をしたときよりも早いタイミングでスタートが切れるので、ゴロが転がればセーフになれる確率も上がるでしょう。
ギャンブルスタートでない場合、内野手が前進守備をしていたら球足の速い打球ではホームに生還できません。
試合の終盤でどうしても一点が欲しいとき、僅差の試合や短期決戦の試合で行われることが多いのも特徴です。
ただ、そもそもギャンブルスタート自体、作戦が採用されるケースは少ないと言えるでしょう。
- ランナーは打球が飛んだらとにかくゴー
- 打球に関わらず突っ込む
- バッターは通常通りバッティングをすればOK
- 僅差の終盤で行われることが多い
- ノーアウトかワンアウトで行われる
ツーアウトの場合は、元々フライであろうとライナーであろうとランナーの動きは関係ありません。
打球が飛んだらとにかくホームに走ることは当たり前なので、ツーアウトの状況ではギャンブルスタートとは言いませんね。
上手くいけば、この動画のように前進守備に転がった打球でも得点することが可能です。
2008年の西武ライオンズと読売ジャイアンツの日本シリーズで、西武ライオンズの片岡治大選手が見せたスタートがギャンブルスタートの良いお手本になります。
このイニングは、先頭バッターの片岡選手のデッドボール、そして盗塁によってノーアウト2塁。
続く栗山巧選手の送りバントによって、ワンアウト3塁。
そして中島裕之選手の打席でギャンブルスタートがあり、サードゴロで一点を獲得しました。
中島選手のスイングを見ていただくと、とにかく当てて転がそうという意図が見て取れると思います。
片岡選手は元々足が速い選手でもありますから、ギャンブルスタートの上にきちんと転がせば一点になる確率が高いと踏んでのことでしょう。
ギャンブルスタートのサインが出たときの動き方
ギャンブルスタートが出たときには、ランナーとバッターの役割を明確にしておく必要があります。
バッターのアウトを一つ献上しても、1点が取れればそれで成功です。
それぞれどのような意識で動けば良いのか、整理しておきましょう。
ギャンブルスタート時のランナー
ギャンブルスタートのサインが出たときには、バッターがバットにボールを当てるかどうかだけを見ていれば大丈夫です。
どんな打球でもスタートを切るので、際どい打球判断が無い分気が楽と言えばそうかもしれませんね。
ただ、盗塁とは違います。
3塁ランナーの場合はスタートが早すぎるとスクイズを警戒されてしまうはずです。
ギャンブルスタートのときはできればストライクを投げてほしいので、余計な作戦を匂わせない方が成功率が高いでしょう。
また、仮に外野フライだった場合は3塁に戻ります。
さすがに明らかに戻れる打球でも突っ込むのではなく、フライやライナーで戻れそうであればその努力をするべきです。
その方が、タッチアップなどで確実に得点できる可能性がありますからね。
ギャンブルスタート時のバッター
ギャンブルスタートが出たときにバッターが気を付けなければならないのが、「ヒットエンドランではない」ということです。
バットに当たったらランナーがスタートするだけであって、どんなボールでも必ず前に飛ばさなければならないわけではありません。
ボール球を無理に打ちに行ってライナーになってしまえば、一気にダブルプレーです。
確実にゴロを転がせるコースに来た時に、スイングしにいった方が良いわけですね。
ランナーがスタートしている分、逆に言えば「当てて転がせば何とかなる」という状況でもあります。
方向を狙うというよりも、転がすということに意識を全振りしてバッティングをした方が良いかもしれません。
意外と気持ちを割り切って打席に立った方が、スッキリと楽にプレーできるものです。
ギャンブルスタートとゴロゴーの違い
ギャンブルスタートとゴロゴーはよく比較される作戦ですが、意味が全く異なります。
ギャンブルスタートもゴロゴーも、野村克也さんが提唱したとされていますが、どちらもランナーが3塁にいる場面で使われる作戦であるということは共通しています。
ギャンブルスタートの場合は
- バットに当たってからスタート
- どんな打球でもスタートを切る
- バッターはとにかくゴロを転がすイメージ
- とにかく1点をもぎ取る作戦
というのが大まかな戦略です。
対してゴロゴーというのは
- ゴロであることを確認してスタート
- 打球が速くてホームに間に合わない場合は、挟まれる
- 挟まれつつ、バッターランナーが3塁に来るまで粘る
最も大きな違いはランナーがスタートを切るタイミングで、ギャンブルスタートの方が早いです。
ですから、打球の速いゴロでなおかつ前進守備だったとしても、ホームに還れる確率が高いわけですね。
逆に言えば、ホームでアウトにされるとチャンスが潰れます。
ゴロゴーの場合は、ホームが無理だと判断したら三塁と本塁の間で挟殺プレーに持ち込みましょう。
バッターランナーが3塁に到達するまで粘って、最悪でも再びランナー3塁の状況を作ります。
基本的にはどちらも貴重な一点を取るための作戦ではあるのですが、ゴロゴーの方が若干保険をかけているとも言えますね。
ゴロゴーの場合はバッターの制約はほとんどなく、ゴロを転がさなければならないということではありません。
あくまでも通常通りヒッティングをして、結果的にゴロであったならばランナーはスタートしましょうねという作戦です。
ギャンブルスタートはゴロを転がすことが求められるので、バッターの心理としても違いがあります。
古田と広沢のギャンブルスタート
プロ野球では、ギャンブルスタートの考案者である野村克也さんがヤクルトスワローズの監督であった頃、日本シリーズの舞台で実践されました。
発端と言われているのは1992年、ヤクルトスワローズ対西武ライオンズの日本シリーズです。
当時ヤクルトの広沢選手が3塁ランナーだったとき、内野ゴロが転がりました。
そこで広沢選手がホームに還れるか微妙な打球に判断を迷い、結果的に点が取れなかったという現象があったのです。
これをきっかけに、どうしても一点が欲しいときの作戦としてギャンブルスタートが発案されたと言われています。
翌1993年の日本シリーズでは、再びヤクルトスワローズ対西武ライオンズの組み合わせで日本シリーズが行われました。
3勝3敗で迎えた第七戦、8回表のヤクルトの攻撃でギャンブルスタートが飛び出します。
バッター古田がスリーベースを放ち、次打者広沢の内野ゴロの間に生還。
この時の古田のスタートが、ギャンブルスタートでした。
しかもこの場面、野村監督からのサインではなく古田さんの独断だったというから驚きです。
結果的に終盤に奪ったこの1点の価値は大きく、4-2でヤクルトが勝利を収めて日本一になっています。
もしこの1点が無ければ、あと2イニングが残っていた西武の攻撃で「一発が出れば同点」という状況が常に続いていたわけです。
それがギャンブルスタートで1点を追加できたことにより、ヤクルトバッテリーに多少の精神的な余裕が生まれたのも見逃せません。
試合の終盤で、ここぞという場面でこそギャンブルスタートの効果が発揮されるのですね。
まとめ:ギャンブルスタートも練習しておこう
ギャンブルスタートのサインを試合で出すためには、練習でも試しておく必要があります。
ランナーが打球が放たれた瞬間にスタートして、バッターはゴロを転がす。
もしこれが高い確率で行えるのであれば、ランナーが3塁にいる状況さえ作れれば確実に1点が取れるという安心感になりますね。