野球のピッチャーの投げ方には、様々な種類があります。
これはスポーツにおいても珍しいことで、誰が見ても明らかに全く異なるフォームがいくつも存在するというのは、他の競技ではあまり考えられません。
主に野球のピッチャーの投げ方は4種類に分けられますが、それぞれの正しい投げ方や特徴を見ていきましょう。
客観的に見てきれいな投げ方というのは、身体の負担も少なくケガの予防にもなります。
理想の投球フォームを作る練習方法や、少年野球の指導にも役立つ投げ方のコツもご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
野球のピッチャーの投げ方
野球のピッチャーでは、主に投げ方が4つあります。
- オーバースロー
- スリークォーター
- サイドスロー
- アンダースロー
それぞれに異なる特徴があり、メリットやデメリットも存在しています。
そのフォームでは投げるのが難しい変化球があったり、ストレートの見え方が全然違ったりと、各投球フォームで全く異なる特徴があるものです。
自分に合ったピッチャーの投げ方を見つけるためにも、それぞれの個性を確認していきましょう。
オーバースロー
オーバースローは野球の最もオーソドックスな投げ方と言えるでしょう。
おそらく、野球を始めた最初の段階では、ほとんどの子供がオーバースローに近い形での投げ方を教わることになります。
最大の特徴は「腕を真上から振り下ろす」というポイントで、一般的にスピードが出やすい投げ方です。
オーバースローは腕が上から出てくるので、きれいなバックスピンのストレートを投げられます。
キレイなバックスピンがかかったボールは、マグヌス効果という揚力が生まれやすく、ノビのあるボールになりやすいのです。
また、縦回転をボールに与えやすいという特徴から、落ちる変化球を投げるのに適しています。
例えばフォークボールや、縦スライダーなどです。
オーバースローの投げ方のピッチャーは、本格派と呼ばれる速球で勝負するタイプのピッチャーが多いでしょう。
スリークォーター
スリークォーターは、オーバースローよりも少し下がった位置から腕を振る投げ方です。
どこからどの位置までがスリークォーターという明確な角度の基準があるわけではありませんが、一見するとサイドスローのように見えることもあります。
近年では、オーバースローよりもスリークォーター気味のフォームで投げるピッチャーが多い傾向かもしれません。
それは、身体の力学的な理由が関係しています。
真上から腕を振り下ろして投げることが出来るのであれば、地球の重力も味方に付けられるので速い球が投げやすいです。
しかし、人間の身体は腕を真上から振り下ろすことに適した作りではありません。
肩甲骨が動く角度が決まっていて、前から見たときに45°の角度が最もスムーズに腕が出てきます。
それ以上の角度になると、肩の関節に負担がかかるのです。
そのため、人間の身体で最も理にかなった投げ方は、実はスリークォーターであると言えます。
実際、プロ野球でも各球団のエースはスリークォーターの投手が多いです。
ただ、大谷翔平選手のように肩甲骨の可動域が人並み以上に広く、肩関節の可動域が広い投手は、オーバースローに近い形で投げられるので快速球が放れるのです。
サイドスロー
サイドスローは、身体の真横から腕が出てくるような投球フォームです。
今までのオーバースローやスリークォーターとかなり性質の違うピッチャーの投げ方で、軸回転で勢いをつけることになります。
頭からマウンドにかけて一本の軸が入ったようなイメージで、そこを中心に腰と下半身を回転させながら投げるフォームです。
野球を始めた当初からいきなりサイドスローで投げるピッチャーは少なく、ほとんどがオーバースローやスリークォーターから転向したという経緯になります。
速い球が投げにくそうな投球フォームですが、中にはサイドスローから150㎞近い直球を投げる投手もいます。
スライダーやシュートなど、横方向の変化球を投げるのに適したフォームと言えますね。
アンダースロー
アンダースローはピッチャーの投げ方の中でもかなり希少で、アマチュア球界でもプロ野球界でもめったにお目にかかれないと言われています。
地面の近くから浮き上がってくるような軌道になるので、バッター目線から見ると普通のストレートでも対応するのが難しいかもしれません。
スリークォーターのような剛速球を投げるのは難しいですが、シンカーなど他の投球フォームでは投げる難易度が高い変化球も比較的簡単に投げられます。
それでいてストレートも浮き上がるので、投げ方として身に付けられればピッチャーとして大きな武器になることは間違いありません。
各投げ方のメリットやデメリット
ピッチャーの投げ方には4種類あるとご紹介してきました。
それぞれの投げ方には、メリットもあればデメリットも存在しています。
特徴にかなり差があるので、確認していきましょう。
オーバースローのメリットデメリット
- 速い球を投げやすい
- キレイなストレートが投げやすい
- 縦方向の変化球が変化させやすい
- 肩甲骨が柔らかくないと負担がかかる
- ピッチャーの投げ方として一般的
厳密なオーバースローは、肩甲骨が柔らかく肩関節が大きく動く人でないとできません。
そのため、正真正銘のオーバースローは実は少ないのかもしれませんね。
しかし、上から腕を振るというのは多くのピッチャーの投げ方がそうであり、決して珍しい話ではありません。
ノビと球威のあるストレートを投げられるフォームではありますが、球の質が高く無いとハイレベルな勝負は出来なくなります。
キレのあるストレートとフォークで攻める、本格派のピッチャーの投げ方と言えますね。
スリークォーターのメリットデメリット
- 速い球を投げやすい
- 肩にかかる負担が少ない
- 様々な変化球に対応できる投げ方
スリークォーターは人体の構造上、肩の負担が少ない投げ方でもあります。
そのため、効率的な身体の動かし方によって速い球を投げることが出来るわけです。
上から腕を振り下ろすという要素はオーバースローと変わらないため、ストレートの回転もきれいなバックスピンをかけられます。
基本的にほとんどの種類の変化球を投げることができる投げ方でもあるので、オーソドックスながら幅広い投球術にマッチするでしょう。
デメリットと言えば、多くのピッチャーがスリークォーターの投げ方をしているので、希少性を生み出すのが難しいという点でしょうか。
サイドスローのメリットデメリット
- 投球に角度がつけられる
- 横方向の変化球が投げやすい
- コントロールが安定しやすい
- 比較的珍しいタイプのピッチャーになれる
- 縦方向の変化球が難しい
- 球威を出すのにコツが必要
- 腰や肘の負担が若干大きくなる
サイドスローの最大のメリットは、マウンドからホームベースの間で投球に角度を付けられることです。
普通のストレートでも、バッターからすれば背中側からボールが飛んでくるように見せることも出来ます。
ただ、投げ方のコツを掴まないと、球威も出しにくく腰や肘のダメージが大きいというデメリットも併せ持っています。
少なくともスリークォーターよりは希少性が高いので、それだけでも相手打線と優位に戦える素質を持っている投げ方と言えるでしょう。
アンダースローのメリットデメリット
- 浮き上がる独特な軌道で投げられる
- 斜めに曲がったり沈んだりする変化球が投げやすい
- 希少価値が非常に高い
- 身体の負担が大きい
- 速い球を投げるのは難しい
アンダースローは非常に独特な投げ方になるため、ピッチャーとしての希少価値は非常に高いと言えます。
バッターにとってはそれだけでタイミングが取りにくくなるので、攻略が難しい投手になりますね。
キャッチャーとしても、アンダースローで勝負できるレベルのピッチャーがいてくれると、配球に幅が出てやりやすいです。
ただ、普通の投げ方と比べて身体の負担が大きくなります。
一度身体を前に屈めて投げないといけないので、投げるスタミナの強化が課題になりそうです。
自分に合った投げ方を選ぶには?
野球のピッチャーには色々な投げ方がありますが、もっとも自分に合った投げ方はどのように見つければいいのでしょうか?
もちろん何度か投げて練習してみるのが一番ですが、身体的な特徴などから適正を見出すことも可能です。
身長で投げ方を決める
身長が高い投手は、オーバースローやスリークォーターで投げた方がボールに高低の角度が付きます。
バッターにとって、上から投げ下ろされるようなボールは打ちにくいものです。
身長が10㎝違えば、リリースポイントも10センチ近く変わるわけですよね。
この10㎝は、バットでミートする瞬間でいうとかなりの差です。
ボールとバットがコンタクトする位置が10㎝違ったら、ホームランがファールチップかくらいの差がでますからね。
得意な変化球で決める
すでに野球でピッチャーをやっている方は、得意な変化球を元に投げ方を考えてみても良いです。
これからピッチャーをやるという方は、投げたい変化球を軸にして投げ方を決めることも出来ます。
例えばフォーク系の変化球で勝負したいという方は、オーバースローやスリークォーターといった上から投げ下ろすタイプの投げ方が適しているでしょう。
スライダーやシュートといった横の変化で勝負したいという方は、サイドスローがオススメです。
速いボールは投げられないけど、緩い変化球と緩急で勝負しようという方は、アンダースローで技巧派を目指すのも良いでしょう。
制球に不安があるならサイドスロー
制球がつきやすいのは、サイドスローです。
肩甲骨の動き的に最もスムーズなのがサイドスローなので、コントロールが安定しやすい傾向があります。
もともとスリークォーターなどで投げていたピッチャーが、コントロールの不安からサイドスローに転向するというのはよくある話です。
肩や肘の故障歴で決める
ピッチャーをやっていれば、肩や肘などどこか故障歴や違和感が出てくることがあります。
ケガと上手く付き合いながら長く野球をやるためには、不安のある個所を考えた投球フォームにする必要も出てくるわけです。
例えば肩を痛めた経験があるピッチャーは、サイドスローの方が比較的負担が少なくなります。
逆に肘の故障経験があるピッチャーは、肩がスムーズに使えるスリークォーターが合っているかもしれません。
上から腕を振ることに恐怖心が出ている方は、思い切ってアンダースローにするのも一つの手です。
チーム事情で決める
例えば同じチームに、エースと呼ばれる本格派のピッチャーがいた場合。
自分が2番手で同タイプだったら、アンダースローなどで明らかな違いを出して、違った魅力で勝負するのも正しい選択です。
速いストレートを投げられたからといって、それだけで相手打線を抑えられるわけではありません。
遅いボールをしっかり引き付けて捉えることの方が難しい場合もあるので、あえてアンダースローからスローカーブを投げて緩急で打ち取るピッチャーだっているのです。
ピッチャーの理想的な投げ方
ピッチャーの投げ方はいくつかありますが、全ての投げ方に共通する「理想的なポイント」が存在しています。
ピッチャーの理想的な投げ方とは、どのような投げ方なのでしょうか?
軸足にしっかりタメがある
野球のピッチャーの投げ方で大切なのは、下半身の力をいかに上半身から指先に伝えるかという部分です。
その土台は、軸足の「タメ」にあります。
投球動作に入って足を上げたときに、軸足にしっかり体重が乗り切ることが重要です。
しっかり重心が軸足に乗らないと、そこからの体重移動でパワーが生み出せません。
肩の開きが抑えられている
投球動作に入ってからリリースに向かう瞬間で、グローブを持っている側の肩が早く開きすぎるとボールの威力が無くなります。
リリースの時に、胸がホームベース側に向くタイミングが早すぎると良くないということです。
グローブを装着している方の腕でしっかり壁を作り、リリースするギリギリまで我慢しておけると球威は上がるでしょう。
踏み込んだ足に体重が乗っていない
軸足に体重を乗せてから徐々に前へと体重移動していくわけですが、最後に前に踏み込んだ足に体重がかかっていないと弱い球になります。
いわゆる「手投げ」という状態で、これではストレートの回転数も上がらず、ノビも無いので重力に負けて落ちてきてしまうわけです。
ピッチャーで良い投げ方をするコツ
ピッチャーで「自分が良い投げ方を出来ているか?」それをチェックするポイントは主に3つです。
- グローブ側の手をグッと引き寄せる
- 投げ終わりの前足が反動で引き戻る
- テイクバックで鷲(ワシ)のポーズになっている
まず良い投げ方とは、「球数を投げても疲れにくい」「下半身が最初に疲れてくる」といった特徴があります。
全力で腕を振らなくても、自然と良いボールが良く投げ方です。
まず一点目の「グローブ側の手をグッと引き寄せる」というポイントについて。
リリースに向かって利き腕を前に振り出すときに、逆の手であるグラブ側の腕をグッと素早く胸に引き寄せることで、その反動によって強い腕の振りが引き起こされます。
続いて二点目の「投げ終わりの前足が反動で引き戻る」というポイントについて。
これは踏み出した足が、リリースの後に微妙に後ろ方向にギュっと引き戻されるような力が加わります。
踏み出した足にそのまま体重を乗せて、身体が前に流れてしまうと、ボールの勢いが妨げられてしまいます。
踏み出した足でグッと地面を掴むようなイメージで投げると、腕に力を入れなくても良いボールが行くでしょう。
最後に三点目の「テイクバックの鷲(ワシ)のポーズ」について。
これは投球フォームの中で利き腕を後ろに引いたテイクバックの時に、グローブ側の腕がしっかりキャッチャー側に向かって開き、横から見たときに鷲(ワシ)のように見えるからです。
これが翼を大きく広げた鷲のようになっていれば、速い球を投げる力になります。
どれか一つでも意識してみて、理想的なピッチャーの投げ方を練習していきましょう。
ピッチャーの投げ方を身に着ける練習法
ピッチャーにとって良い投げ方をするには、反復練習が必要です。
理想的な投げ方が出来ることはもちろん大切で、それを試合の中でも毎回同じように何十球と投げられなければいけません。
そのために、ピッチャーの良い投げ方が身体に染みつく練習方法をご紹介していきます。
①軸足だけで立って静止してから投げる
簡単な練習方法で、足を上げた状態で軸足一本で止まる練習です。
投球練習であえて軸足だけの一本で数秒静止して、そこから実際に投げます。
軸足でしっかりタメをつくる感覚を養うのに役立つ練習です。
②真下にボールを叩きつける
投球フォームをしっかり行い、キャッチャーミットに投げるのではなく、踏み出した足元にボールを叩きつける練習です。
これを行うことで、指先でボールを強くリリースする感覚が養えます。
さらに、テイクバックをゆったり大きく取らないと真下に強く投げられないので、トップの形を作る練習にもなるのです。
③シャドーピッチング
いきなりボールを持たなくても良いのです。
鏡に映る自分を見ながら、タオルなどを持ってシャドーピッチングをするのもフォーム固めの良い練習になります。
④ジャンプしてからピッチング
軽く後ろにジャンプしてから投球動作を行うのも、体重移動の良い練習になります。
体重移動がスムーズに出来れば、腕力がなくても速い球が投げられるのです。
クイックだけでなく全ての投げ方で活きてきます。
まとめ
野球のピッチャーの投げ方は、その選手の個性によって様々なやり方を選ぶことが出来ます。
それぞれ長所も短所もあるので、自分の持っている特徴と照らし合わせて理想的な投げ方を追究していきましょう。