野球の投手は、主に「先発・中継ぎ・抑え」という3つの役割に分かれています。
その「中継ぎ」の中でも、特にチームで重要な位置づけとされているのが「セットアッパー」という役割です。
過去のプロ野球でも、リーグ優勝や日本一になるチームには、その年の「最強のセットアッパー」と呼ばれるような選手が存在しています。
今回は、そんな「セットアッパー」という言葉の意味や、クローザーとの違いなどについても解説していきましょう。
セットアッパーの意味とは
セットアッパーとは
「勝ち試合の8回を抑える投手」
だと思っていただければ良いでしょう。
野球では、先発以外の投手を全員、リリーフと呼びます。
中継ぎ投手も、抑え投手(クローザー)もリリーフです。
そのリリーフという括りの中に、「セットアッパー」と呼ばれる人物が1人いると思ってください。
主に僅差(通常は3点差以内が目安)の試合で、8回の1イニングを抑える役割を担っている投手が「セットアッパー」です。
セットアッパーと中継ぎ・リリーフの違い
前述しましたが、先発を任される投手以外のことを全員「リリーフ」と呼びます。
つまり、中継ぎ投手はリリーフです。
複数いる中継ぎ投手の中で一人だけ、セットアッパーと呼ばれる選手が存在します。
セットアッパーは、中継ぎ投手の一人でもあるわけです。
ただ、中継ぎ投手が全員セットアッパーになれるわけではないということですね。
試合終盤の8回1イニングだけを確実に抑えることが、セットアッパーの役割となります。
セットアッパーとクローザーの違い
先ほど、先発投手以外は全員リリーフピッチャーだとご説明しました。
そんなリリーフピッチャーの中でも、9回(試合の最終イニング)の1イニングだけを確実に抑える役割を担っているのが「クローザー」(抑え)です。
セットアッパーが8回なのに対して、クローザーは9回の1イニングを投げるという違いがあります。
理想的な流れとしては、先発投手が7回まで投げ、セットアッパーとクローザーで8回と9回を締めるという流れになるでしょう。
セットアッパーに必要な能力
セットアッパーは、中継ぎの中でもクローザーと並び最も能力的に優れている投手が務めることがほとんどです。
具体的に、セットアッパーに求められる要素とはどのようなものがあるのでしょうか?
- ボールのスピードが速い
- 絶対的な決め球がある
- 各球種のキレがある
一つずつ解説していきます。
ボールのスピードが速い
優秀なセットアッパーの多くは、ストレートのスピードが速いです。
プロ野球なら、150㎞以上の直球を投げられることが望ましいと言えます。
近年では、160㎞近い剛速球を持った投手をセットアッパーに据えるケースも珍しくありません。
単純にボールが速い方がバットに当たりにくいですし、打者を圧倒できるからです。
絶対的な決め球がある
セットアッパーは、ファンや周囲の人にも認知されるくらい絶対的な決め球を持っている選手もいます。
後述する、元中日ドラゴンズの浅尾拓也投手の「高速フォーク」などが代表的です。
セットアッパーが登板する場面は、基本的に僅差の試合となります。
しかも8回という終盤戦なので、1点の失点も許されないケースも多々あるのです。
例えば1アウトランナー3塁のピンチになった場合、内野ゴロすら許されません。
その場面で、高い確率で三振が取れる変化球が必要となるのです。
各球種のキレがある
長いイニングを投げられる必要は無いので、8回の1イニングを全力で0点に抑えられる能力が求められます。
必然的に、全ての球種でキレがあってレベルの高いボールを投げられる必要があるのです。
メンタル面でも、相手チームに「あいつが登板したら得点のチャンスは少ないぞ」と思わせるような存在であれば、より一層セットアッパーとしての価値は高まります。
セットアッパーはホールド数で評価できる
投手の分かりやすい指標として、勝ち星、セーブ数などがあります。
中継ぎ投手やセットアッパーに関しては、「ホールド」という数値がわかりやすい指標となるでしょう。
要は「僅差で勝っている試合を、リードした状態で次の投手に繋ぐ」
ということが出来れば、ホールドが記録されます。
必然的に、勝ちパターンの中継ぎ投手にホールドが付与されるケースが多くなり、中でもセットアッパーが最もホールドが多くなるはずです。
失点したかどうかは関係ありません。
とにかく勝っている状態のチームを、そのまま追いつかれることなくクローザーに託すのがセットアッパーの役目となります。
ホールド数の多いセットアッパーは、
「点差の少ないリードを守る、緊迫する展開でも結果を出し続けてきた」
と評価することが出来るのです。
プロ野球最強のセットアッパー
勝ち数やセーブと比べるとあまり目立たないかもしれませんが、圧倒的なホールド数を誇る絶対的なセットアッパーの存在は強いチームの条件でもあります。
歴代のプロ野球で、セットアッパーとして活躍した選手をご紹介していきましょう。
宮西尚生
日本ハムファイターズに入団してから中継ぎを任され、2021年現在も現役であり、通算ホールド数の日本記録保持者でもあります。
最優秀中継ぎ投手のタイトルも3回獲得しており、日本最高のセットアッパーの一人です。
球速は140kmを少し超えるくらいですが、サイドスローからのスラーブやシンカーといったキレのある変化球を武器としています。
山口鉄也
読売ジャイアンツ一筋で、9年連続60試合登板というNPB記録の保持者でもあります。
前述の宮西投手と同じく、最優秀中継ぎ投手3回獲得というのも日本記録です。
2012年には72試合登板で防御率0.72という驚異的な記録を残しました。
浅尾拓也
1シーズンでの最多ホールド記録(47)保持者であり、MAX157㎞のストレートと140㎞近いフォークを操る、理想的なセットアッパーの一人です。
登板過多の影響もあり、若くして現役を引退した印象もあります。
しかし2011年には79試合登板で防御率0.41と、まさに相手チームにとっては絶望的な投手だったと言えますね。
スコットマシソン
外国人選手のセットアッパーとしては、最強クラスの一人です。
MAX160㎞の直球を武器に、高い奪三振率を誇りました。
シーズンホールド40以上を2回記録するなど、長らくジャイアンツの勝利の方程式を支えた一人です。
久保田智之
1シーズン90登板というとてつもない記録を持っている、阪神タイガース最強のリリーフ陣「JFK」の一角であった久保田投手。
90試合に登板した2007年は、ホールド数も46で防御率1.75と抜群の安定感を誇っていました。
最速157㎞を記録したこともある、剛速球の持ち主です。
ジェフ・ウィリアムス
プロ野球でも最強のリリーフ陣と言われる「JFK」の一人で、最速156㎞を記録したこともあります。
前述の久保田投手と、藤川球児投手と3人の頭文字をとって「JFK」と呼ばれていました。
サイドスローからのスライダーが脅威で、2007年には60試合に登板しながら防御率0.96を記録しています。
まとめ:セットアッパーは現代野球に欠かせない役割
昭和の野球のように、先発投手が完投することだけを美学としていた時代は終わりました。
現代では、複数の投手が自分の役割をきっちり果たすことで勝利を収めることが大切だとされています。
そんな中、試合終盤のリードを確実に守るセットアッパーの存在は、どんどん大きくクローズアップされるようになってきました。
各チームのセットアッパーを見ていくのも、野球の楽しみ方の一つかもしれませんね。