野球の試合は、チームの勝敗に加えて投手個人にも「勝ち」や「負け」が記録されます。
「勝ち投手」や「勝利投手」という表現で、勝利チームで登板したピッチャーの中から一人に「勝ち星」が与えられるのです。
反対に、負けたチームの投手陣の中から一人「敗戦投手」や「負け投手」といった表現の不名誉な記録が残される選手もいます。
この勝利投手や敗戦投手の決め方には、あるルールがあるのです。
そこで今回は、勝利投手になれる条件や、その決め方について詳しく解説していきます。
勝利投手の権利とは
スポーツニュースなどでプロ野球の結果を伝えるときに、
「6回2失点で勝ち投手の権利を得て降板しました」
というようなフレーズを聞いたことがありますでしょうか?
当然、まだ試合が終わっていない段階では誰が勝ち投手になるのかわかりません。
ましてや、チーム自体がその後に逆転されて負けてしまえば、自チームから勝利投手が選出されることは無いわけですからね。
この「勝ち投手の権利」とは、主に先発投手に向けて使われる言葉で、基本的には先発して
「5イニング以上を投げたうえで、チームがリードしている状態」を指します。
最も簡単に分かる勝利投手の条件は、先発で5回を投げ切ることなのです。
ところが、5回で交代したとして、その後にチームが同点に追いつかれたり一度でも逆転されたりすれば、勝ち投手の権利は他の投手に移ります。
最終的にチームが勝ったとしても、自身の降板後に一度でも同点やビハインドの状況が作られたら、先発投手に勝ちが付くことはありません。
ですから、先発投手が降板した時点でチームがリードしていれば、暫定的な「勝ち投手の権利」として仮の勝ち星を持っているだけなのです。
その後点差がどうなろうが、常にリードした状態を保ったまま試合を終えることができれば、5回以上を投げ切った先発投手が勝利投手になります。
勝利投手の条件
勝利投手になるには、いくつかの条件を満たさなければなりません。
まず公認野球規則によれば
ある投手の登板中の攻撃、あるいは登板中の投手が代打または代走と交代して退いた回の攻撃で自チームがリードを奪い、しかもそのリードが試合終了まで保たれた場合、その投手が勝利投手になる。
公認野球規則
という記載があります。
この文中に出てくる「登板中」とは、先攻のチームであれば、「勝ち越した回の直前」すなわち、チームが7回表に勝ち越していれば7回裏のことです。
逆に後攻のチームであれば、「勝ち越した回の表」すなわち、チームが6回裏に勝ち越したなら6回表を投げ切った投手が該当します。
ですので基本的には、チームがリードを奪った瞬間の自チームの投手が勝ち投手になるという解釈で良いです。
しかし、先発投手と救援投手(リリーフピッチャー)では、勝利投手になるための条件が少し違います。
先発投手の勝利条件
5イニング以上投球する
(天災や日没コールドなどで、勝利チームの守備が6イニングに満たない場合は4イニング)
先発投手であった場合、5回を投げ切ることが勝利投手の権利を得る最低条件になります。
ですから、チームが後攻でかつ10対0でリードしていたとしても、何らかのアクシデントによって5回表の2アウトで降板した場合、先発投手に勝ちはつきません。
もし勝利チームの先発投手が勝ち投手の条件を満たしていなかった場合、次のような決め方になります。
- 救援投手が一人なら、その投手が勝利投手
- 救援投手が複数の場合、投球イニングが1イニング以上多い投手
- 同イニングまたは1イニング未満の差なら、公式記録員が判断した投手
上記の場合、もし先発投手が4イニングで降板し、変わった2番手投手が最後まで投げ切ったら無条件で2番手投手が勝利投手になります。
また、先発投手Aが4イニングを投げ、2番手投手Bが3イニングを投げ、3番手投手Cが2イニングを投げた場合は投手Bが勝利投手ということです。
ややこしいのは、先発投手Aが3イニング、投手Bと投手Cも3イニングずつ投げた場合です。
まず先発投手Aは5イニングを投げていないので、勝利投手にはなれません。
投手BとCは投球イニングが同じなので、より効果的な投球をしたと公式記録員が判断した方に勝ち星が付くことになります。
これは次の章で解説する、救援投手の勝利条件にも通ずるものです。
救援投手の勝利条件
救援投手の登板中に勝ち越した場合
これが最も分かりやすい救援投手の勝利条件です。
その投手の投球イニングが1イニング以上であれば、まず無条件でその救援投手が勝ち投手になります。
例えばチームが後攻で、6回裏を終えて同点だったとしましょう。
7回表から救援投手Dが登板し1イニングを抑えます。
7回裏にチームが1点を取って勝ち越し、8回と9回の2イニングを投手Eが無失点で抑えたとしましょう。
この場合、投手Dが登板中に勝ち越している上に、1イニングを投げ切っているので文句無く勝ち投手になります。
厄介なのは、もし投手Dがアウトを2つまたは1つしか取れなかった場合で、後任の投手が複数いる場合です。
- 救援投手が1イニング以上投げていれば、その投手が勝ち投手
- 投球イニングが1イニング以上多い救援投手がいる場合は、その投手が勝ち投手
- イニングの差が1イニング未満の場合は、公式記録員の判断による
- 2人以上の投手が同程度の投球内容だった場合、先に登板した方が勝ち投手となる
また、勝ち投手に「なれない条件」として
投球イニングが1イニング未満で、かつ前任投手の残した走者を含む2失点以上した場合は原則として勝利投手になれない
公認野球規則
という明記もあります。
ということは、もしチームが10対0でリードしている状況で先発投手が4回で降板したとしましょう。
その後を投手Bが2イニング、3番手投手Cが3イニング投げた場合には投手Cが勝ち投手になるわけです。
もし救援投手が複数人いて、それぞれのイニング差が1イニング未満で、かつ全員が効果的な投球をしていたとみなされれば、先に登板した投手に勝ち投手の権利が優先されます。
また、先発投手が5回の守備で満塁のピンチを招き、変わったピッチャーが走者一掃のタイムリーヒットや満塁ホームランなどで2失点以上した場合、その投手が1イニング以上投げなければ勝ち投手にはなれません。
先発投手として記録した勝利を「先発勝利」、2番手以降の救援投手として記録した勝利を「救援勝利」と呼び、通算勝利数はその両方を合計した数値になります。
もしサヨナラゲームとなった場合、最終回の守備(表)に登板した最後の投手が勝ち投手になるルールです。
例えば9回表まで同点で、9回ツーアウトから登板して打者一人を三振に打ち取ってチェンジになったとしましょう。
その裏の攻撃でチームがサヨナラ勝ちをすれば、最後の三振を取ったピッチャーが勝ち投手です。
そのため、もしその最後の打者を初球で内野ゴロやフライに打ち取ったとすれば、たった1球だけ投げた「一球勝利」という珍しい記録が残されることになります。
負け投手の条件
野球の場合は同点で試合終了となることもありますが、ほとんどのケースでは勝敗が付きます。
勝ちチームの投手一人に「勝利投手」の栄誉が与えられますが、負けチームの投手一人に「敗戦投手」または「負け投手」の記録が残るのもルールです。
その時に誰を敗戦投手とするのか、そこにも条件があります。
- 自らに記録された失点で相手にリードを許した
- その後、一度も同点や逆転にすることなくチームが敗れた
この2つの条件が重なってしまった場合、負け投手となります。
また、失点については自分が登板中のみ記録されるとは限りません。
例えば先発して6回途中無失点の状態でランナー2,3塁の場面で降板し、2番手の投手がタイムリーヒットを打たれてランナーを二人ホームインさせてしまったとしましょう。
この場合、ランナーを出してしまった投手の責任となるので、失点は降板前の先発投手に付きます。
交代前の投手に自責点が付くことになるので、負け投手はランナーを2人出した先発投手となるわけです。
しかし、その後一度でもチームが同点に追いついたり、一時的でも逆転したりすれば先発投手の負けは消えます。
試合が同点または逆転になった場合、そこから新たに勝利投手と敗戦投手の条件が計算されるからです。
少年野球の勝利投手の条件は?
小学生の少年野球や中学野球の場合、試合が9回までではなく7回までとなります。
この場合も、勝利投手は5イニングを投げ切った先発投手が権利を得ることになるでしょう。
しかし、そもそも少年野球の場合は、誰が勝利投手かというような記録はあまり重視されておりません。
まだ身体が出来上がっていない年代で数多くの投球数をこなすことへの危険性もありますし、投手に勝ち星が付くことの意味が無いのです。
もし条件を明文化するとしたら、5回を完投した先発投手に勝ち投手の権利が付与されるのが一般的ですが、結果的にチームが勝利したかどうかが重要になります。
後は、各地域の各団体の規定に則った記録が残されるでしょう。
まとめ:勝利投手の条件と投手の能力は比例しない
ひと昔前までは、プロ野球において投手の勝利数はかなり重要視されていました。
しかし、近年ではセイバーメトリクスなど野球の能力をデータ化する方法が様々存在しており、投手の勝利数がさほど大きな意味を持たないことが分かってきたのも事実です。
例えば5回を投げて6失点だったとしても、打線が8点取ってくれていれば勝ち投手になれます。
反対に、7回1失点の好投を見せたとしても、打線が沈黙していれば勝ち投手の条件は満たせません。
このように、必ずしも防御率と投手の勝利数は一致しないというわけです。
結果的にチームを勝たせられたという意味では大切ですが、勝利数が投手の能力をそのまま反映しているわけではないということを知っておきましょう。