ワインドアップ投法とは、野球における投手の投球フォームの一つです。
確かにワインドアップ投法はかっこいいフォームですし、昔のプロ野球のエース達はワインドアップ投法の選手が多かったですよね。
しかしそんなワインドアップ投法が、現代では廃れてきて、ワインドアップを採用している投手の数が減ったというのです。
それは一体なぜなのでしょうか?
今回は、ワインドアップ投法の効果やメリットデメリット、ワインドアップ投法を取り入れる意味などについてご紹介していきます。
ワインドアップ投法とは
ワインドアップ投法とは、投球の際に「グローブとボールを持つ手を合掌させて、頭の上に挙げる」という投球フォームです。
主にランナーがいない状態で投げる投球フォームであり、ワインドアップから基本的に牽制は出来ません。
もし1塁にランナーがいる状態でワインドアップで投球動作に入ったら、悠々と盗塁を許してしまいます。
ワインドアップの途中で投球を止めて牽制をしたら、ボークになってしまいますからね。
プロ野球界では、昭和の時代に各球団のエースと呼ばれる投手達は、多くがワインドアップの投げ方をしていました。
しかし、今の時代の現役選手では、ワインドアップ投法を採用している投手が少なくなっているのが現実です。
単純に、ボールをリリースするまでの動作工程が増えるわけですから、その分細かな制御が難しくなるというデメリットも拍車をかけているかもしれません。
ワインドアップの他にはどんな投げ方がある?
ワインドアップで投げる現役選手が少なくなったと述べましたが、ワインドアップの他にはどのような投げ方があるのでしょうか?
ノーワインドアップ
一つはノーワインドアップです。
ワインドアップが頭の上までグラブと利き腕を持ち上げるのに対し、ノーワインドアップは腕が顔よりも高く上がりません。
ワインドアップよりもノーワインドアップの方が、より少ないシンプルな動作でボールを投げることが出来るのです。
現役選手でも、プロ入り当初はワインドアップで投げていたものの、プロ入り後数年してからノーワインドアップに切り替えたという選手も珍しくありません。
セットポジション
セットポジションは、主にランナーがいる状態で用いる投球フォームです。
普段はワインドアップやノーワインドアップで投げているピッチャーでも、ランナーが出ればほぼ100%セットポジションになります。(稀に、満塁の場面でワインドアップを使う選手もいるため)
セットポジションの特徴は、投球開始前の段階ですでにホームベースに対して半身になっている点です。
そのため、より一層シンプルな動作で投球することが出来ます。
ランナーがいるいないに関わらず、全ての投球時にセットポジションを採用しているピッチャーも珍しくありません。
クイックモーション
クイックモーションは、主に1塁にランナーがいる場面で使われます。
より素早い投球フォームで、マウンド上のプレートに足をセットした状態から、普段よりも小さな動きで投球するやり方です。
ランナーの盗塁を抑制する目的が大きく、稀にランナーがいない状態でも、打者のタイミングを惑わせるためにクイックモーションを使う投手もいます。
クイックモーションという概念自体は、名捕手であり名監督の野村克也さんが考案したとされています。
普段から常にクイックモーションで投げ込むという投手は少なく、場面に応じて使い分けられる投球術と言えるでしょう。
この動画の久保康友投手は、プロ野球選手の中でも抜群にクイックモーションが速いので、かなり極端な例になります。
ワインドアップ投法のメリット
ここまでいくつか投げ方をご紹介してきましたが、その中でもワインドアップを選ぶ投手がいるということは、ワインドアップならではのメリットがあるわけです。
ワインドアップにはどんなメリットがあるのか、5つに分けて見ていきましょう。
- 軸足に体重がしっかり乗せられる
- 相手バッターに威圧感を与えられる
- 投球フォームにリズムが出来る
- 合っている人なら球威が上がる
- 投球フォームがカッコいい
軸足にしっかりタメが出来る
ワインドアップは一度両手を顔より上に挙げてから、再び胸の前に戻してくるフォームになります。
そのため、足を上げたときに、軸足にしっかり体重を乗せる時間が確保できるわけです。
スピードがあって威力のあるボールを投げるためには、軸足でのタメが必要になります。
ここでしっかり下半身に体重を乗せられることで、多少のボール球でも思わずスイングしてしまうような威力あるボールが投げられるわけですね。
相手打線に威圧感を与えられる
ワインドアップは一度大きく伸びあがるような恰好になります。
しかも、往年の名投手達にワインドアップで投げていたピッチャーが多いというイメージも相まって、相手打者に威圧感を与えることも出来るでしょう。
相手バッターに「速い球が来そうだ」「球威に押されそうだ」という潜在意識を植え付けるだけで、かなり優位に立てます。
相手にそう思ってもらえれば、勝手にバットのスイングをコンパクトにするなど、怖さが半減したバッティングをしてもらえるかもしれません。
投球フォームにリズムが出来る
ワインドアップは動作が多い分、投球フォームにリズムが作りやすいです。
安定して質の高いボールを投げるには、毎回同じ投球フォームで投げられることも重要になります。
ワインドアップで一定のリズムが作れれば、同じストレートでも毎回球威が大きく異なるなど、一球ごとの質のバラつきを防ぐことが出来るでしょう。
球威が上がる人もいる
セットポジションなど他の投げ方だとどうしても投げ急いでしまう人や、軸足にしっかり重心が乗せられないという人などは、ワインドアップで球威が上がる可能性もあります。
ワインドアップにして一つ一つの動作をしっかり確認しながら行うことで、常に自分に合った正しい投球フォームで投げることが出来るのです。
ピッチングのクセを見て、今までノーワインドアップで投げていたものを、あえてワインドアップに変更するという投手もいます。
見た目が格好良い
ワインドアップの投球フォームは、やはり真似したくなるようなカッコよさがあります。
野球においては、見た目の格好良さとプレーの質が比例する場合も多いわけです。
第三者から見て格好いい投げ方ならば、それは身体の理にかなった動き方をしているからと考えて良いでしょう。
ワインドアップが格好いい投手は、総じて威力のあるボールを投げています。
ワインドアップ投法のデメリット
ここまでワインドアップ投法のメリットなどをご紹介してきましたが、アマチュア球界も含め、最近の野球界ではワインドアップで投げる投手が減ったのも事実です。
それは、ワインドアップ投法が他の投げ方と比べて大きなデメリットも隣り合わせになっているからなのです。
- 制球が安定しにくい
- バッターがタイミングを合わせやすい
- テンポが悪くなる場合もある
- 球威がそこまで変化しない
少なくとも、上記3つのデメリットが存在しています。
一つずつ確認していきましょう。
コントロールが難しい
ワインドアップでは、コントロールが安定しないというピッチャーも多いです。
ワインドアップはボールのリリースまで動作が多い上に、ダイナミックな投球フォームになります。
そのため、自分の動作が細かい部分で制御しにくく、ボールのコントロールが悪くなってしまうのです。
コントロールの難しさは、ときに投手にとって致命的な欠点となります。
どんなに球威があってスピードがあっても、キャッチャーのフレーミング技術が高くても、明らかなボール球で勝負するのは無理です。
コントロールが安定しない、四死球の多さが目立つというピッチャーは、ワインドアップから他の投球フォームへの変更を検討してみてください。
それだけで、劇的な改善がみられるかもしれません。
バッターがタイミングを合わせやすい
ワインドアップをバッター目線から見ると、じっくり投球フォームを見られます。
その分、ボールに対するタイミングを計るのも、簡単になるのです。
投球動作がシンプルで短い方が、セットしてから投球に入るまでの間まで気にしなくてはなりません。
ワインドアップは十分に時間が取れるので、バッターにとっては打ちやすい投球フォームになっている可能性もあるのです。
テンポが悪くなる場合がある
野球の試合では、投球のテンポが味方打線の攻撃に影響を与えることがあります。
守備の時間をテンポ良く短く終わらせることが出来れば、バッティングも波に乗れるものなのです。
しかしワインドアップで一球一球じっくり投げることで、かえってテンポが悪くなってしまう場合もあります。
キャッチャーからピッチャーにボールが返球されてから、すぐに投球動作に入れば別です。
しかしバッテリーの呼吸によっては、投球までの間隔が少し開いてしまうこともあります。
そこで毎回ワインドアップで時間をかけて投げていては、守っていても守備の時間がダラダラと長く感じられてしまうのです。
ワインドアップでいくなら、なおさらキャッチャーとのサインを手早く決める必要があります。
球威の変化はあまり無い
ワインドアップの方が明らかに球威がアップするような印象もあるかもしれませんが、実際はそうではありません。
それはあくまでもイメージであり、ストレートの最高速度に影響を及ぼしているわけでは無いのです。
実際に日本時代にはダルビッシュ有投手がワインドアップで投げていましたが、メジャーリーグにいってからはセットポジションで投げています。
それでも球威は落ちていませんし、むしろスピードは上がっているわけです。
セットポジションにしたことで体重移動もスムーズにでき、より効率的な身体の使い方が出来るようになったとも言えます。
これは人によって合う合わないがあると思いますが、球威を求めてワインドアップにするというのは必ずしも正解ではないということですね。
ワインドアップを試すべき投手とは
ワインドアップのメリットとデメリットをそれぞれ確認してきました。
ここまでの情報を踏まえ、ワインドアップを取り入れると良さそうな投手はどんな投手なのか、その条件を整理していきます。
- 身長が高い
- 力強さが欲しい
- しっくりくる
主にこの3つに当てはまる方は、ワインドアップに挑戦する価値があると言えるでしょう。
長身のピッチャー
背が高いピッチャーは、ワインドアップにすることでより迫力がプラスされます。
日本のプロ野球界でも、元ホークスの斉藤和巳さんや、メジャーでも大活躍のダルビッシュ有投手がかつてワインドアップで投げていました。
二人とも190㎝近い身長で、マウンド上でさらに大きく見えます。
阪神タイガースに入団した当初の藤浪晋太郎投手も、ワインドアップで投げていました。
上背がある人がワインドアップで投げると、風格も出ますね。
フォームに力強さが欲しい
打者が打ちにくいのは、投球フォームとギャップのあるボールです。
例えば、思いっきり腕を振って投げているのに緩い変化球が来るなど、イメージと違う球は対処が難しくなります。
普段、緩い変化球やボールのキレで勝負するタイプのピッチャーには、ワインドアップの方が相性が良いかもしれません。
かつて中日ドラゴンズで活躍していた名球会投手、山本昌さんが良い例です。
150㎞近い剛速球を投げるタイプのピッチャーではありませんが、ワインドアップの投球フォームには非常に躍動感があります。
現に通算200勝以上を達成したり、ノーヒットノーランを達成したりと、超一流投手にふさわしい活躍をしていたのです。
スピードガンの表示ではなく、体感として威力のあるボールを投げたいというピッチャーは、ワインドアップが良いかもしれませんね。
自分が気持ちよく投げられる
ワインドアップの方が自分が気持ちよく投げられるというピッチャーも、その方が良いかもしれません。
自分が投げやすい、投げていて心地よいというのは、活躍する上で大切です。
ノーワインドアップだとしっくりこないという方は、あえてワインドアップから変える必要はありませんからね。
どの投げ方が自分に最も合っているのか、様々試しながら模索していく必要があります。
ワインドアップに向いてない投手
逆に、明らかにワインドアップに向いていない投手というのも存在しています。
- 制球があまり良くない
- 投球のテンポが悪い
この2つの特徴を持っているピッチャーは、ワインドアップはやめた方が良いです。
ワインドアップはノーワインドアップやセットポジションと比べて、制球が安定しにくい投球フォームとも言えます。
セットポジションの方が余計な力が抜けて、スムーズな腕の振りが出来るかもしれません。
剛球を投げる本格派タイプのピッチャーでも、試行錯誤の末にワインドアップからセットポジションに辿り着くというケースも多いです。
だからといって球威を捨てるわけではないので、球威が落ちないならワインドアップにこだわる必要もありませんからね。
また、投球のテンポが遅いピッチャーはワインドアップだとチームメイトに悪影響を及ぼします。
野球は「流れ」や「リズム」で大きく試合展開が変わるスポーツです。
守備の時間がテンポ良く短く終わる試合は、バッティングの方で打線がビッグイニングを作りやすい傾向があります。
どんなに相手打線を抑えていても、点を取ってもらわなければ勝てません。
味方や自分を援護するためにも、セットポジションなどでテンポ良く放ることを心がけてみてください。
相手バッターに考える時間を与えないことにも繋がるので、テンポアップするメリットも大きいのです。
まとめ
ワインドアップは、時代と共に徐々に使い手が減りつつあります。
力強さや躍動感あるフォームで相手に威圧感を与えたいというピッチャーはワインドアップが良いですが、コントロールなど機能性を重視する場合はかえってデメリットになることもるわけです。
ワインドアップとノーワインドアップやセットポジションの投げ方を試してみて、自分の考える理想の投球に近いのはどれか確かめながら練習していきましょう。
「ワインドアップこそエースの投げ方だ!」
という信念がある方は、それを貫き通すのだってアリです。
ワインドアップのメリットとデメリットどちらも把握して、もし採用する場合はデメリットをいかに小さくできるか試行錯誤しながらですね。
投球フォームに加えて、以下の記事で各球種の握り方も確認してみてくださいね。