プロ野球を見ていると、「DH」という言葉が気になりますよね。
特に最近はメジャーリーグでも大活躍している大谷翔平選手に関する報道の中で、「DHで出場」とか「DHを解除」とか、幾度となくDHというキーワードが出てきます。
日本のプロ野球では、パリーグのみが採用しているDH制度ですが、一体何の略でどのようなルールなのでしょうか?
今回は、野球のDH制度について深掘りしていきます。
野球のDHとは何の略?
野球のDHとは、「designated hitter」の略で、日本語では「指名打者」と言います。
攻撃のときに、投手の代わりに打席に立つ選手のことです。
アメリカのメジャーリーグではアメリカンリーグ(ア・リーグ)が、日本のプロ野球ではパシフィックリーグ(パリーグ)が、このDH制を採用しています。
DHとして試合に出た野手は、打撃専門(塁に出ればもちろん走塁も行う)の選手なので、守備につくことはありません。
逆に投手は投球だけに専念することになるので、DHを含めた野手9人と、投手1人、全部で10人のスターティングラインナップになるわけです。
DH制度に関するルール
DH制度はあまり野球に馴染みのない方からすると少し複雑なルールではありますが、要は「打撃専門の選手」だと捉えていればOKです。
その他にも細かいルールが存在するので、いくつかまとめていきましょう。
- DH制度は採用しなくても良い
- パリーグでもDHは解除できる
- 試合前にDH選手を指定する
- DHの打順は固定
- DHの先発は必ず一度は打席に立つ
この5つのルールについて、詳しく解説していきます。
DHは採用しなくてもいい
MLB(メジャーリーグ)ではア・リーグが、NPB(日本のプロ野球)ではパリーグがDH制度を使うことができます。
しかし、必ずしもDHの選手をスターティングメンバ―として起用しなければならないというルールはありません。
大谷翔平選手のように、投手登録でありながら飛び抜けた打撃能力がある選手がいれば、指名打者制度を使わなくても良いのです。
実際に大谷選手が日本ハムファイターズにいた2016年、DH制を使わずに6番投手として先発出場したことがありました。
パリーグでもDHが解除できる
DHは、途中で解除することも可能です。
元々DHとして出場していた選手を守備につかせて、投手を打順に組み込むことで解除ができます。
この場合、退いた選手の打順に投手が入ることになります。
また、DHだった選手を途中から投手として登板させることでDHを解除することも可能です。
実際に2016年のクライマックスシリーズで、3番DHとして出場していた大谷選手が、9回から投手としてマウンドに上がった試合もありました。
DHは試合前に指定する
その試合でDHを使いたい場合は、試合前に必ずDHとして出場する選手をスタメンとして指定しなければなりません。
最初にDHを使わずに、試合の途中からDHを使うということは出来ないのです。
DH制度を使いたい場合は、試合前から決めておかなければいけません。
DHの打順は固定される
試合前にDHを決めたら、その打順は試合を通して固定されます。
通常の守備であれば、例えば4番ファーストで出場した人がいたとして、その選手が途中で退いたとしましょう。
この場合、8番バッターとして出場している選手に、途中からファーストを守らせることもできます。
しかし、DHの打順は試合終了まで固定されるのです。
DHは最低一度は打席に立つ
DHとしてスタメン出場した選手がいた場合、この選手は必ず最低でも1打席は完了させなければなりません。
打席に立たないまま、代打を送るということは出来ないのです。
実際に、2011年5月20日の広島東洋カープ戦で、野村監督が偵察要因として今村猛投手をDHとして起用してしまいました。
これを当時オリックスの岡田監督に指摘され始めて気が付き、結局今村投手は1打席(犠打)だけ立って次の打席を迎えるときに代打を出されて交代したということがあります。
なお、相手の先発投手が降板している場合、打席完了前でも交代が可能です。
DH制度のメリット
DH制度が存在するということは、それなりのメリットがあるということです。
- チームの攻撃力がアップする
- 自チームの投手にかかる負担が軽減できる
- 出場できる人数が増える
- リーグ全体で投手が鍛えられる
日本シリーズでパリーグが優位になっている近年の状況からよく議論される、これらDH制度のメリットについて深く見ていきましょう。
チームの攻撃力アップ
DHを採用して打撃に特化した選手を入れれば、当然ですが得点力のアップが期待できます。
パリーグで言えば、打率1割にも満たない投手を打席に立たせるよりも、守備に難があってもホームランが期待できる野手を打席に立たせた方がいいのです。
大谷翔平選手のような打撃力をもった投手でない限りは、DHを使わないという選択肢はほぼあり得ないということですね。
投手の負担軽減
自チーム目線で見た場合、投手の負担を軽減できます。
打席に立たずにピッチングだけに専念できるので、ランナーなどで消耗する余計な体力を温存することができるわけです。
打撃や走塁による怪我のリスクも防げるので、選手を守るという意味でもDH制度は理にかなっていると言えそうですね。
出場人数が増える
DHを採用するということは、9つのポジションにプラスしてもう一人出場選手枠を増やせるということです。
守備が苦手でもバッティングが得意な選手がいれば、そういった選手にも出場チャンスが巡ってきます。
選手の出場機会を確保するという面でも、メリットがありそうです。
リーグ全体の投手力アップ
相手チームにDHがいるということは、ホームランや長打を秘めているバッターと余計に多く対戦しなければいけないということです。
DHのないセリーグなら、打率1割程度で本塁打もほとんどないピッチャーが打席に立ちます。
それがパリーグの場合、その代わりとして、打率3割で本塁打も年間30本近く打つようなバッターが打席に立つのです。
これは大きな差であり、日々こういった打線と対戦する投手陣が、自然と鍛えられていくことも十分に考えられます。
その結果として、2010年以降たった1度しかセリーグのチームが日本シリーズを制していないという現実に反映されているのです。(2021年現在)
DH制度のデメリット
一方で、セリーグがかたくなにDH制度を採用しないというのには、デメリットが隠されているからでもあります。
- 投手交代の駆け引きがなくなる
- 選手層の厚いチームが有利になりすぎる
- 投手の打席機会も野球の醍醐味
- 選手の年俸が増える
投手交代の駆け引きがなくなる
セリーグの場合DHがありません。
そのため、先発投手をどこまで投げさせるのか駆け引きが行われるのも面白いところです。
例えば両チーム無得点で迎えた終盤戦、両チームの先発投手が好投しながらも疲れをみせ始めてきたとしましょう。
8回表にノーアウト1,2塁の大チャンスを作って、ピッチャーの打席を迎えます。
ここまで好投してきた投手に代打を送って一挙にチャンスを掴みにいくのか、それとも投手をそのまま打席に送って9回まで投げさせるのか、ここで駆け引きです。
もし代打を送って点が取れなければ、逆に今度は相手チームが勢いづくでしょう。
こういった駆け引きが、DH制度には少ないと言えるでしょう。
選手層によって偏りがでる
DHを採用すれば、打撃力のある選手を多く抱えているチームが圧倒的に有利です。
足の遅さや守備の下手さに目をつぶっても、打撃さえ光っている選手がいれば、有利に戦えます。
パワーのある外国人選手をたくさん連れてこられるチームなど、選手編成が偏ったバランスになってしまうことも考えられるのです。
投手の打席機会を奪ってしまう
投手が打席に立つ機会は、実は試合を大きく左右するケースも少なくありません。
基本的にどのチームも、バッターとして立つ投手は「抑えて当たり前」という風潮になっています。
そのため、もし投手にヒットを打たれれば、守備側のチームは心理的に大きくダメージを受けるでしょう。
それがホームランやタイムリーヒットなら、攻撃側のチームが一気に勢いづくことになります。
選手の年俸が高騰する
これは球団経営という観点でみたときに、DHで大活躍する選手が一人増えれば、それだけ野手の年俸も高騰するということが言えます。
打撃重視の外国人選手や、フットワークが落ちても打撃が光るベテラン選手など、決して安い年俸では契約できない選手がDHには多くなる傾向です。
資金力の差によっても、DHを活かせるかどうかが左右されるということですね。
セリーグがDH制を採用していない理由
近年では、日本シリーズで惨敗が続くセリーグの現状に巨人の原監督が危機感を持ち、セリーグのDH制導入を希望していると言われています。
他のセリーグ球団も同調しているチームがあるという話ですが、全6球団が合意しない限りはセリーグにDHが導入されることはありません。
特に、広島東洋カープがDH制に反対姿勢を示していると言われています。
やはり前述したデメリットがひっかかるという面が大きいのではないでしょうか。
ファンの声としても、セリーグのDH制導入は賛否が分かれています。
出場選手枠が広がるという面で賛成意見があるのはもちろん、セリーグとパリーグの差別化や、「投手が打席に立つことならではの作戦」という面白味が失われてしまうという反対意見があるのも事実です。
高校野球にDHはない
今のところ、高校野球にDH制度は存在していません。
練習試合や紅白戦などで、両チームが申し合わせてDHを取り入れることはあるかもしれませんが、公式戦では無いのです。
ただ、指名打者がいた方がレギュラーが10人になり、教育的な観点でもメリットがあるという意見もあります。
投手の肉体的な負担軽減にもつながるので、将来的には高校野球でもDH制度が誕生するか注目ですね。
まとめ:野球のDHはメリットも多い
筆者としては、セリーグや高校野球でのDH導入には賛成です。
やはり選手が10人出場できるという点や、投手のケガリスク軽減というメリットがありますからね。
ただ、打撃力のある投手がいるのも事実ですし、投手のバッティングという面白味がなくなってしまうのは寂しい気もします。
将来的にどうなっていくのか、議論すべき大きなテーマでもありますね。