昔から日本の野球界では、「アーム式の投手は故障しやすい」という俗説があります。
ピッチャーの「アーム投げ」はなぜダメなのでしょうか?
近年では、プロ野球でもアーム投げと呼ばれるピッチングフォームで成功を収めている選手も出てきています。
しかも、アーム投げで150㎞を超えるような剛速球を投げている投手もいるわけです。
やり投げだってアーム投げに近いし、本当は、アーム投げは悪くないのではないでしょうか。
そこで今回は、野球のアーム投げとはどんな投球フォームなのか、矯正するとしたらどんな直し方がいいのか?
ということについて解説していきます。
アーム投げとは
一般的に言われるアーム投げとは、「テイクバックで肘を伸ばし、腕を振ったときに肘と手が同時に出てくるように見える投げ方」です。
例えばこんな感じ
特に日本で昔から理想的とされている投球フォームは、いわゆる「肘抜き」と呼ばれる投げ方で、テイクバックのときに肘が曲がっています。
そこからリリースに向かって腕を振るときには、肩・肘・手首の順番でバッターボックスの方向に向かって振り出されるのです。
キレイな肘抜きのフォームはこんな感じ
「アーム投げ」と呼ばれる由来としては、バッティングセンターなどに置いてあるピッチングマシーンのアームのように、肘が伸びたままボールが出てくるように見えることからそう呼ばれています。
アーム投げは肩や肘に大きな負担をかけ、怪我・故障の原因になるということから、良くない投げ方として指導されてきました。
しかし近年、冒頭の動画でご紹介した山本由伸投手や、読売ジャイアンツで頭角を現している戸郷投手などのように、いわゆるアーム投げのフォームで活躍する選手が出てきたのです。
そんな時代背景があり、アーム投げの投球フォームは実は悪くないのではないか?という説が賑やかになってきました。
ただ、確かにアーム投げが腕に負担をかけるのは事実ですし、アーム投げの中でもケガに繋がりやすい形とそうでない形があります。
まずは、少年野球などでアーム投げの投手を、どのように見守ったらいいのか「正しい矯正方法や直し方について知っておきましょう」
アーム投げの矯正方法と正しい直し方
アーム投げは、見た目で「テイクバックで肘が伸びている投手」がそう呼ばれます。
実はそこからリリースに向けて腕を振るときに、肘が曲がって正しいトップが出来ていれば大きな負担はかかりません。
真の意味でのアーム投げは「肘を全く使えずに、肩の動きだけで腕を振っている投げ方」です。
そのことを踏まえ、「トップの形」「腕の振り方」の2つのポイントを改善出来れば、見た目でアーム投げと言われる投げ方でも問題ありません。
これからご紹介していく練習を通して、
- アーム投げから「肘抜き」の投球フォームに改良する
- 「正しいアーム投げ」で負担の少ないフォームを作る
この2つの道がありますから、特に指導者は無理やり「自分が思う理想のフォーム」に矯正しないように気を付けてください。
バドミントンのラケット振り
まず一つ目は、バドミントンのラケットで素振りをする方法です。
バドミントンのラケットを持ち、実際の投球フォームと同じように腕を振ります。
もしこれが完全なアーム式で、テイクバックからリリースまで肘が伸びているようだと、鋭く振りぬくのは難しいです。
ラケットを素早くキレ良く振るには、投球でいう「トップ」の位置で肘を曲げなくてはなりません。
仮にテイクバックで肘が伸びていたとしても、トップの位置に来た時にちゃんと肘が曲がれば問題ありませんからね。
これが野球のピッチングにも活きてきます。
まずはボールをラケットに持ち替え、素早く腕を振る感覚を養いましょう。
マルかいてポン
こちらはYouTubeなどで話題になったアーム投げ矯正方法で、「まる書いてポン」で正しい腕の使い方を練習するやり方です。
内容を抜粋すると
- トップで肘が伸びすぎていると(悪い)アーム式になる
- 顔の横で円を描くようにボールを動かす
という投球フォームを身に着けることが大切だということです。
今までとは全く違う腕の使い方になる選手もいるはずなので、まずは野球ボールではなく、ビニールのボールやゴムボールなどで練習してみましょう。
スマートフォンなどで投球フォームを撮影してもらうと、より分かりやすいはずです。
ペットボトルでシャドーピッチング
ペットボトルを逆さに持って、ピッチングのように動作を行うアーム投げ矯正練習の方法です。
アーム式の腕の使い方を治すということはもちろん、ペットボトルをスムーズに動かすために、理にかなった腕の振り方を自然と身に着けるための練習になります。
このペットボトルを使った練習方法を行うと、先ほどご紹介した「まる書いてポン」の感覚がより分かりやすいのではないでしょうか?
ぜひ合わせて取り組んでみてください。
ジャイロスティック
バドミントンのラケットやペットボトルのシャドーピッチングでも十分ですが、何かアーム式を直すのに良い道具は無いかとお探しの方は、こちらの「ジャイロスティック」というギアを試してみてください。
要は、良い腕の振り方のときだけ「ピュッ」という音が鳴るというアイテムです。
腕の振り方を客観的に見られないときなどは、こういった道具を使って音で判断するというのも一つの方法ですね。
アーム投げのメリット・デメリット
野球投手のアーム投げはデメリットが大きいとよく言われますが、具体的には何が良くないのでしょうか?
アーム投げのメリット
- 遠心力を大きく使える
- 正しい腕の使い方が出来れば、細身でも剛速球になる
野球で言われるアーム投げは、陸上競技のやり投げのような投げ方に近いです。
ですが、野球ではアーム投げは悪くて、やり投げではアーム投げが正しいと言われます。
野球ボールの方が軽いですし、やり投げの槍の方が重いので肩や肘の負担は大きいはずです。
それなのに、やり投げはいわゆるアーム投げで投擲を行います。
そこにヒントがあり、悪いと思っていたアーム投げも、一概に全てが悪とは限りません。
やり投げの場合は、槍が長いので物理的に野球のピッチングのような腕の使い方をすると、頭にぶつかってしまいます。
ただ、それを応用して正しいフォームを身に着けられれば、野球ボールならさらなる力強いボールが投げられるはずなのです。
それが、ただやり投げと同じような投げ方で腕を振るから、野球には向かないということなのですね。
アーム投げのデメリット
- 肩や肘の負担が大きい
- 速いボールが投げられない
- 意図せずシュート回転する
やはり昔から言われるように、野球でアーム投げを行っていると、肩や肘を壊します。
肘が伸び切っている分遠心力も大きくなるため、肘の靭帯や筋肉にかかる力も増えるわけです。
効率的な腕の動かし方では無いので、アーム式で投げていると球速も遅くなってしまいます。
また、遠心力が大きく制御しにくいため、腕が振りにくいので身体の開きが早くなります。
その分、ボールは意図しないシュート回転をしてしまい、球威が落ちてしまうのです。
身体の開きが早くなれば、バッターからリリースポイントも見えやすくなり、打ちやすいボールとなってしまうでしょう。
アーム投げ投手は怪我や故障が多い!?
アーム投げの投手は怪我や故障が多いというのは、間違いではありません。
やり投げと全く同じ投球フォームで、野球ボールのような重さを何度も投げていれば、特に肘の靭帯が少しずつ断裂してきてしまうでしょう。
ただ、故障しやすいアーム式のフォームには
- テイクバックで手のひらが上を向いている
- トップの位置で肘が伸びすぎている(鈍角になっている)
という共通点があります。
この2つさえクリアできれば、たとえテイクバックでアーム式に見えたとしても、実はそれほど心配する必要のない投球フォームであることも少なくありません。
特に先発ピッチャーであれば、1試合で100球以上投げることもありますし、練習などで毎日投げ込む投手もいるでしょう。
それを、腕に最も負担がかかるようなアーム式で繰り返していると、選手生命も短くなってしまいます。
野球選手の肩や肘は消耗品ですから、自分やチームの選手がアーム式のフォームだと思ったら
- テイクバックの手の向き
- トップでの肘の形
この2つの点に着目して、投球フォームをチェックしてみてください。
実際にプロ野球選手でも、周囲からアーム式の投げ方だと言われているのに、バリバリ活躍している選手もいるのですから。
アーム投げのプロ野球選手
アーム投げは、日本では悪いイメージが付いていますが、あまりに腕の開きが早くて肩が亜脱臼してしまう危険性が高い投げ方を本来そう呼びます。
腕を振るときに、身体から腕が離れている投手を「アーム投げ」と表現するのですが、そういわれている投手が全て良くない投げ方をしているわけでは無いのです。
その証拠に、アーム投げと言われているのにプロ野球選手まで上り詰めている選手もいます。
山本由伸
オリックスバファローズの山本由伸選手が、160㎞近い剛速球で最優秀防御率などのタイトルを獲得するまでに成長し、アーム投げが見直されるようになったといっても過言ではありません。
動画のスロー映像でもわかるように、確かにテイクバックの段階ではボールが身体から離れていますが、トップを作る場面ではしっかり肘が90°近くまで曲がっています。
これが、肘が伸び切ったまま腕が振られていれば負担がかかりますが、実際にはそうではないのです。
このことからも、見た目で周囲からアーム投げと呼ばれている選手が、実は肘に負担がかかりにくいフォームで投げていたという事実が分かります。
戸郷翔征
読売ジャイアンツで、ルーキーイヤーから1軍マウンドを経験している戸郷選手。
この投手も、やはりアーム投げと言われています。
先に挙げた山本選手よりも、アーム投げの傾向が強いですが、やはりやり投げとは全く違うのが動画からも伝わるでしょうか。
テイクバックから腕を振り始めるまでは、身体から腕が離れてアーム式のように見えます。
しかしトップの段階では、肘が曲がってしなりが効いているのです。
実際に150㎞超の速球で若くして活躍しているように、完全なる悪いアーム投げではないということですね。
佐藤世那
アーム投げと言えば、高校野球ファンの間では即名前が出てくるのが佐藤世那投手でしょう。
現在はオリックスを戦力外になってしまいましたが、仙台育英高校時代は甲子園で準優勝しています。
先に挙げた2人の投手よりも、さらにアーム式の傾向が強い投げ方と言えます。
山本選手と戸郷選手と違うのは、テイクバックからトップに移行するときに、右腕の開きが早くてボールが早く上を向いてしまう点です。
確かにこうなってくると、アーム式の悪い部分である、肩や肘の負担が増えると言わてもおかしくありません。
実際に、プロ晩年ではフォームをサイドスローに変更している点も踏まえて、プロのコーチ陣からも指導が入ったのでしょう。
ジェイコブ・デグロム
最後に、メジャーリーグの優秀なピッチャーをご紹介します。
ニューヨークメッツの、ジェイコブ・デグロム投手です。
この選手は、日本ではアーム式と言われてしまうような投げ方をしています。
確かに日本の投手と比べると、ボールが身体から離れているまま投球動作を行うので、アーム式に見えるかもしれません。
しかし、実際には肩や肘の負担が少ない、理想的な投げ方をしています。
テイクバックから腕を振るときに手のひらが上に向いてしまうような、完全なるアーム式では無いのです。
デグロム選手が2年連続でサイヤング賞(メジャーリーグの投手に贈られる最高の賞)を獲得したこともあり、日本で言われるアーム式の投げ方が再考される流れがさらに加速されました。
まとめ:アーム式は実は悪くない
アーム式の本来の意味は、手のひらが上を向いて肘が伸び切った投げ方で、肩が脱臼してしまう恐れのあるフォームのことです。
今日本で言われているアーム式の意味合いとは、若干異なります。
ですから、見た目上アーム式に見えたとしても、実は正しい投球フォームをしている選手なのかもしれません。
中には、確かに肩や肘の負担が大きいフォームが染みついてしまっている投手もいるので、そういった選手たちさえ改善できれば良いのです。
アーム式を矯正するかどうかのポイントは
- テイクバックで手のひらが上を向いていないか
- 腕を振るときに肘が伸びたままになっていないか
この2つです。
これに該当するときは、アーム式の矯正方法など練習を見直してみてくださいね。