野球の投手の防御率を記録するときに重要となる指標「自責点」
実はこの自責点は、「失点」とは意味が全く異なります。
自責点を正しいルールで計算すると、ホームランを打たれているのに「自責点ゼロ」というケースも存在するのです。
そこで今回は、自責点とはどのようなルールに基づいて記録するのか?失点との違いなどについて徹底的に解説していきます。
自責点とは
自責点とは、投手の責任による失点のことです。
野球規則にも
自責点とは、投手が責任を持たなければならない得点である。
(公認野球規則)
と記載されています。
最もわかりやすいところでいえば、相手チームのバッターにソロホームランを打たれて1点を献上した場合、その投手の自責点は1となります。
また、得点を許すのはホームランだけではありません。
例えばタイムリーヒットを打たれた場合、生還したランナーがどのような経緯で出塁したかで自責点に加算されるかが決まります。
単純に言えば、味方のエラーで出塁を許したランナーの生還であれば、投手の自責点にはなりません。
自責点になる打席結果や内容としては、
- 安打
- 犠飛(犠牲フライ)
- 犠打
- 刺殺
- 四死球(敬遠フォアボール含む)
- 暴投
- ボーク
- 野手選択(フィルダースチョイス)
- 盗塁
これらによって、進塁した走者がホームを踏んだときに投手に自責点が計上されます。
ただ、これは後述するような様々な状況によって変化するものであり、安打によって出塁を許したランナーが得点しても、自責点とならないケースもあるのです。
記録員の判断によっても左右されるところもあるので、一概に語れないという現状もあります。
失点と自責点の違い
失点も自責点も、どちらも相手チームに得点を許しているという点では同じです。
しかし、投手成績などでは、「6回10安打5失点(自責点1)」というように、失点と自責点の数字が合わない場面も多々あります。
これは、失点と自責点の概念が異なるからです。
- 失点は、相手チームに許した得点数
- 自責点は、失点の内、ピッチャーの責任となる得点数
このような分かれ方をします。
失点は、相手に得点が入ればすべてカウントされる成績のことです。
自責点は、失点の内にどれだけ投手自身の責任による得点が含まれているかという指標になります。
投手個人の成績にも影響する「防御率」に反映されるのは、自責点の方です。
防御率(その投手が9イニング投げたと仮定したらどれくらいの点数が入るか)で投手の優劣を決めるとしたら、失点の多さは関係なくなるということですね。
味方のエラーで何人ランナーを出して何点取られようが、自責点にならなければ防御率は悪化しません。
失点で計算するよりも自責点で計算した方が、より投手個人の能力が反映されやすいという考え方が出来ますね。
2アウト後のエラーがあれば、自責点は0?
自責点の計算や記録は非常にややこしく、草野球のレベルで厳密に計算するのはかなり大変です。
というのも、どれだけ点数を取られても自責点には全く反映されないケースがあるからです。
例えば、第三アウトを取る機会があったとみなされた場合、それ以降の失点は自責点にはカウントされません。
どういうことかというと、例えばツーアウトランナー無しの場面。
そこから、打者が平凡なショートゴロを打ち、遊撃手が普通に守備行為をすれば1塁でアウトに出来ます。
しかし、遊撃手がエラーをしてしまい、ツーアウトランナー1塁という状況になってしまいました。
この場合、通常の守備行為を行っていれば3つ目のアウトを取得できたと考えられます。
そのため、それ以降の失点は、自責点には1点もカウントされなくなるのです。
極端な話、そこからフォアボールやデッドボールで満塁になり、二死満塁から満塁ホームランを打たれて4失点したとしても、自責点はゼロのままになります。
しかし、二死満塁で投手が交代してホームランを打たれた場合、ホームランの分(打者の得点)の1点は交代後の投手に自責点が付くのでややこしいですよね。
塁上にいる3人のランナーは自責点には関係ないですが、打者との対戦は交代後の投手の責任ということになるわけです。
ヒットのランナーが生還しても自責点がつかないケース
自責点は、記録には残らない失策も考慮します。
例えば、ファールフライを落球してしまった場合です。
ツーアウトランナー無しから、バッターが3塁側のファールフライを打ち上げたとしましょう。
普通に守備行為をすれば、三塁手がキャッチしてスリーアウトチェンジのはずです。
しかし、この打球を三塁手が落球してしまいました。(ファールフライエラー)
この場合、普通に守備行為をすれば捕球できたとみなされるので、その後に失点しても自責点はつきません。
このファールフライのエラーに関しては、ノーアウトでも適用されます。
例えばそのイニング先頭のバッターが、キャッチャーへのファールフライを打ち上げたとしましょう。
これをキャッチャーがグローブに当てて落球。
その直後の投球で、打者にソロホームランを打たれてしまいました。
この1点の場合も、自責点には含まれません。
普通に捕手が守備行為を行えればアウトが取れたと判断されれば、投手の責任にはならないのです。
このあたり、微妙なプレーは記録員の判断も分かれるところなので、その時によって変わってくるかもしれません。
イニング途中で投手が交代した場合の自責点
イニングの途中で投手が交代するというのは、よくある場面です。
この場合、自責点の計算がまた複雑になります。
例えばツーアウトランナー1,2塁の場面をイメージしてください。
投手Aが、この二人のランナーをヒットで出してしまい、大ピンチで投手Bに交代。
変わった投手Bが、打者にツーベースヒットを打たれて2失点。
次の打者を三振で抑えてスリーアウトチェンジという状況になりました。
この場合、ランナーを出したのは投手Aの責任なので、失点と自責点ともに投手Aに計算されます。
投手Bが投げたときに2点が入ったのですが、そのランナーは投手Bの責任ではないため、失点も自責点もつかないのです。
もしこれが、ツーアウト後に内野手や外野手のエラーで出塁したランナーだった場合、失点2は交代前の投手Aにつきますが、自責点は誰にもつきません。
また、もし投手Bが変わった直後にスリーランホームランを打たれた場合はどうでしょうか?
二人のランナーが投手Aの責任(安打など)で出塁したランナーであったなら、自責点2が投手Aにつき、自責点1が投手Bにつきます。
そうでない場合は、自責点1がB選手につくだけです。
さらに、もし投手Bが投げた最初のバッターでファールフライエラーがあり、その直後にスリーランホームランを打たれたとしても誰にも自責点は付かないということになります。
まとめると
- 基本的に残した走者は前任投手の責任
- 交代後の投手がランナーを還しても、本人には自責点はつかない
- ランナー自体が投手の責任でなければ、自責点ゼロになる
記録員の判断で自責点の計算が異なる場面
プロ野球などでは公式記録が一つ残されるため、その失点が自責点がどうかをハッキリ明確にしなければなりません。
ところが、エラーの度合いによっては記録員の判断が分かれる場面というのがあります。
例えばランナー無しでファールフライのエラーがあった直後の本塁打は、自責点には含まれないと前述の項目で説明しました。
ファールフライのエラーを、ダイビングキャッチを試みて結果的に落としてしまった場合はどう判断するかが人によって基準が微妙に違います。
頭から突っ込むようなダイビングでギリギリグラブに触れて落としたのなら、エラーではないと判断できそうです。
しかし、フックスライディング(足からのスライディング)のように滑り込み、お腹の上でボールを受けるような形にして結果的に落球した場合などは際どいプレーになります。
その方の主観による部分もあるので、そのときの責任記録員がどのように判断するかで、自責点の計算が異なるということになりますね。
もし全く同じようなプレーだったとしても、公式記録員が違えば防御率が若干変わるということもあるかもしれません。
投手の失策は自責点になる?
投手は、打球が放たれてインフィールドでプレーしている間、野手とみなされます。
したがって、投手自身が打球処理を誤ってエラーを犯した場合でも、自責点には含まれません。
他にもまとめると
- 投手自身の失策は、自責点に含めない
- ボークやワイルドピッチ(暴投)は自責点になる
- パスボール(捕逸)は自責点にならない
- 牽制悪送球は、基本的に自責点にならない
このように、投手自身のエラーがらみの進塁や得点は、非常にややこしいものとなっています。
当然、元々のランナーがそもそも投手自身の責任による出塁でなければ、自責点には加算されません。
ボークはワイルドピッチ(暴投)は、通常のプレーにおける「エラー(失策)」とは別物と考えるので、自責点になります。
しかし、同じくエラーには含まれないパスボール(捕逸)は、自責点に含まれないので曖昧ですよね。
牽制悪送球による得点はエラー(失策)なので、自責点には含みません。
ですから理論上は、ヒット3本で満塁のピンチを作ったとしても、牽制悪送球を繰り返して3点献上したとしても防御率は悪化しないということになります。
もちろん、現実的ではありません。
日本とアメリカで自責点の考え方が少し違う
日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグでは、自責点の計算方法が少し違います。
計算式自体は同じなのですが、自責点を決定する時期が違うのです。
- 日本は、得点が入ったらすぐ自責点かどうかを決定
- アメリカでは、イニングが終了してから決定
日本(NPB)の場合は、得点が入ったら即座にそれが自責点がどうかが決定されます。
しかしアメリカ(MLB)の場合は、イニング終了まで待って、失策やミスが無かったときのことを検討してから自責点の決定がなされるのです。
例えばツーアウトランナー3塁の場面で、違いが顕著になります。
この場面で、パスボール(捕逸)によって1点を献上しました。
その直後にヒットを打たれ、次のバッターを見逃し三振に取ってスリーアウトチェンジになったとしましょう。
日本の場合、パスボールは自責点にカウントしませんから、この場合自責点は0です。
しかしアメリカの場合、パスボールの後のヒットを加味します。
要は、「もしパスボールが無くても、結局ヒットを打たれているから一点入っていたじゃん!」という考え方なのです。
従って、アメリカの場合は自責点が1点計上されます。
こういったシチュエーションを鑑みれば、日本の方がいくらか自責点が少なくなりやすいかもしれませんね。
チーム自責点と個人の自責点は違うことがある
チーム単位で見たときと、個人単位で見たときには自責点の数が若干変わることもあります。
これは前述した通り
「第三アウトを取る機会があった後、その後の失点は自責点にはカウントしない」
というルールがあるからです。
例えばツーアウトから、エラーによってランナーが一人出た場合。
この場面で投手が交代して、ツーランホームランを打たれたとしましょう。
投手個人で見れば、交代後の投手はホームランを打たれているので、自責点が1点プラスされます。
しかしチーム単位で見れば、第三アウトの機会があった後のホームランなので、自責点はゼロのままということなのです。
まとめ:自責点と失点のルールはややこしい
簡単にまとめれば、「失点-失策がらみのランナー=自責点」ということになります。
また、各チームの野手陣によって守備範囲やスキルに差があるので、単純に防御率だけで投手能力の上位下位を決めることは出来ません。
あくまでも自責点や失点は目安として、「大事な場面で失点しない」ということが重要になります。
投手の力だけでは失点は減らせないので、野手全員で連携して抑えていきましょう。