野球の投手で個性的な投球フォームといえば、アンダースローですよね。
アンダースローは球速が出ないとか、投げ方が難しいとか、デメリットもあります。
そんなアンダースローで、ストレートの最速記録はどのくらいなのでしょうか?
普通は球速が速い方がバッターも打ちにくいはずですが、最速も遅くなりがちなアンダースローで投げるメリットには何があるのか。
アンダースローの最速記録と合わせて、その特徴について深掘りしていきましょう。
アンダースローの最速ピッチャー
アンダースローの最速は、一般的にオーバースローやスリークォーターの投手と比べると遅くなると言われています。
実際に日本のプロ野球とメジャーリーグで記録された、アンダースローの最速記録を見てみましょう。
NPBにおけるアンダースローの最速
日本のプロ野球で2021年現在、アンダースローの最速記録は146㎞です。
福岡ソフトバンクホークスに所属している高橋礼(たかはしれい)投手が、2018年の日本シリーズ広島東洋カープ戦で146㎞を記録しました。
かつて日本のプロ野球で活躍していたアンダースローの投手は、120㎞前後の緩い変化球を駆使して打者を幻惑する戦略の投手が多かった印象です。
しかしこの高橋礼投手は、今までのサブマリンの常識を覆し、剛速球を投げ込んだことで話題となりました。
ちなみに、高橋礼投手は、オーバースローで投げると125㎞程度しか球速を出せないそうです。
MLBにおけるアンダースローの最速
アメリカメジャーリーグでは、ブラッドジーグラーという投手が球速150㎞(93マイル)を記録したことがあります。
そもそも日本人がイメージするアンダースロー投手というのは、本当に地面スレスレの位置からリリースされるような投球フォームになっていることでしょう。
これは、かつて日本で活躍していたアンダースロー投手達がそうだったからにほかなりません。
その代表格が、渡辺俊介投手です。
そこに慣れてしまうと、メジャーリーグのアンダースロー投手のリリースが少し高いと感じるかもしれません。
それでも、メジャーリーグでサイドスローより低い位置から投げるピッチャーはめずらしいです。
長身選手が多いメジャーリーガーで、あえてアンダースローで投げるというのは試行錯誤の結果なのでしょうね。
アンダースローで最速が遅いのはなぜ?
基本的には、アンダースローの投手は最速が遅くなる傾向があります。
オーバースローやスリークォーターで投げる投手の方が、スピードが出しやすいのです。
そこにはどんな理由があるのでしょうか?
- アンダースローは重力を利用しにくいから
- アンダースローのフォームでは力をボールに伝えにくいから
主にこの2つの理由が挙げられます。
アンダースローは重力に逆らっている
オーバースローは腕を上から振り下ろす形になるので、重力を味方につけることができます。
対してアンダースローは、腕を下から振り上げる形になるので、重力に逆らう格好になるのです。
そのため、球速が出にくいので最速が遅くなると理由づけることができるでしょう。
力をボールに伝えにくい
もう一つの理由として、アンダースローの投球フォームはボールに力を伝えるのが難しいということが挙げられます。
投球フォームの一連の流れの中で、身体を前に曲げて地面に向かっていくような体重移動をしなければなりません。
下半身の負担が大きく、習得するのが難しいということも言えるでしょう。
アンダースローのメリット
アンダースローを習得できれば、大きなメリットを得られることも事実です。
- 肩や肘の負担が少ない
- 独特の軌道で投げられる
- ボールの出どころが分かりにくい
- 打者の近くでリリースできる
- 珍しい投球フォームで幻惑できる
- スピードに頼らない投球ができる
- キャッチャーが取りやすい
肩や肘の負担が少ない
一般にアンダースローのフォームは、オーバースローなどと比べて肩や肘の負担が少ないと言われています。
無理に肩を上げるわけではなく、下半身や腰の回転を使って投げるやり方です。
そのため、肩や肘の筋力だけに頼っていてはそもそもピッチングすることすら難しいのですね。
独特の軌道になる
アンダースロー投手のボールの軌道は、地面から浮き上がってくるような軌道になります。
普通の投手とは真逆の軌道になるので、バッター目線でいえば初見で打つのは難しいと言えるでしょう。
特に国際大会で、日本のアンダースロー投手が重宝されるのはここに理由があります。
ボールの出どころが見えにくい
良いピッチャーの条件として、ボールのリリースポイントがバッターから見えにくいという点があります。
たとえ最速のスピードが遅くても、打席で見たときにボールを目で追うのが難しければ、打ち取れる確率は上がりますからね。
打者の近くでリリースできる
アンダースローのフォームでは、下から腕を出してホームベース近くまで伸ばしてリリースします。
そのため、マウンドからホームベースまでの距離を最短まで縮めることができ、バッターの体感球速を上げることができるわけです。
そのため、最速が遅くてもバッターにとってはスピードガン以上に速く感じられているわけですね。
珍しいフォームで幻惑できる
バッターがヒットを打つためには、最も大切なことはタイミングを合わせることです。
ピッチャーの投球フォームに合わせて足を上げるタイミングを決めたり、スイングをし始めるタイミングを決めています。
アンダースローは比較的珍しいので、バッターがタイミングを合わせるのが難しいと言えるのです。
スピードに頼らない投球ができる
常時160㎞を出せるなら、バッターを打ち取れる確率は上がります。
しかし、現実的には難しいですし、そもそも同じ球速帯ばかりではバッターも慣れて打てるようになるものです。
アンダースローの場合は緩い変化球が投げやすく、100㎞台の遅いボールを続けた後に120㎞のストレートを投げるだけで、球速が120㎞以上に感じられることもあります。
緩急を使いやすいので、腕力だけでなく投球術を駆使した配球ができるのです。
キャッチャーが取りやすい
アンダースローは下から上に浮き上がる軌道になるので、ワンバウンドになるボールが必然的に減ります。
そのため、キャッチャーが後ろに逸らしてしまう(パスボール)確率が減り、守りやすいということは言えるでしょう。
有名アンダースロー投手の最速記録
これまで日本のプロ野球で活躍してきた、主な有名アンダースロー投手の最速について見ていきましょう。
高橋礼投手
先ほどもご紹介してように、今のところアンダースロー投手の最速とされる146㎞を叩きだしたのが高橋礼投手でした。
高橋投手が他のアンダースロー投手と違うのは、身長が188㎝と高い部類に入ることです。
長身選手でありながら、手足の長さを活かしてアンダースローで活躍しているという点も、面白い魅力であります。
牧田和久
西武ライオンズからメジャーリーグに渡り、2021年は楽天で活躍している牧田投手。
ストレートの最速は130㎞に満たないことも多いですが、さらに遅い「超遅球」として90㎞台のボールを駆使することも魅力です。
アンダースローならではの、超スローカーブで強打者を打ち取る様は圧巻ですね。
渡辺俊介
2021年現在、多くのプロ野球ファンに強烈な印象を残し、アンダースローのイメージを作った投手がこの渡辺俊介投手でしょう。
地上数センチのところからリリースされるボールは、「世界一低いサブマリン」と称されることもありました。
WBCなど国際大会でも活躍し、平成以降の野球ファンにとっては「アンダースロー=渡辺俊介」という図式が出来上がっていてもおかしくないほどのインパクトがあります。
最速は132㎞と言われおり、決して早くはありません。
山田久志
前述の渡辺俊介投手が平成を代表するアンダースローなら、昭和を代表するアンダースローは山田久志投手でしょう。
最速は130㎞台と決して速くはありませんが、当時は今のように150㎞をバンバン投げる投手は本当に希少な存在でした。
相対的に見れば、今よりもアンダースローの最速130㎞台という価値はもっと高かったと言えるでしょう。
杉浦忠
プロ野球で史上7人しか達成していない投手五冠(勝利数、防御率、奪三振、最高勝率、最多完封)を達成したアンダースロー投手でもあります。
史上最強のアンダースロー投手との呼び声も高く、入団2年目の1959年には38勝4敗という驚異的な成績も残しました。
詳しい最速記録は残っていませんでしたが、張本勲さん(日本プロ野球最多安打記録保持者)は、最高に球威のあるアンダースロー投手だと述懐しているようです。
まとめ:アンダースローの最速はかなり速い
アンダースローは緩急を上手く使って相手打者を幻惑する攻め方が多いものだというイメージもありました。
しかし実際には、146㎞を投げる高橋礼投手のような選手が出現するなど、アンダースローでも剛速球を投げる投手はいるようですね。