シンカーは野球の変化球の中でも、扱っている投手が比較的少ない球種です。
プロ野球では、メジャーリーグでも活躍しているダルビッシュ有投手がかつて投げていたことが有名ですが、腕の負担を考慮して現在はあまり投げていないという話もあります。
高校野球では、2011年の夏に西東京の日大三高が甲子園で優勝したとき、エースとして君臨していた吉永健太朗投手が決め球に使っていたときも話題になりました。
上手く決まれば「魔球」と表現されることもあるシンカー。
一体どのような握り方で、どんなリリースの仕方をすれば投げられるのでしょうか。
今回は、シンカーの握り方や投げ方のコツ、効果的な使い方などを紹介していきます。
シンカーの握り方
- 鷲掴みのようにボールを持つ
- 5本の指を等間隔にする
- 中指だけ縫い目にかける
一見するとただ鷲掴みにしているように見えますが、各指の間隔は均等に並ぶようにします。
中指を頂点として五角形を形成するイメージです。
そして、中指だけ縫い目にかけることもポイントになります。
リリースするときに中指と薬指の間からボールが抜けるような形になるので、そこでシンカーのスピンがかかるわけです。
これでなかなか思うようなシンカーの変化が得られないという場合は、次の握り方も試してみてください。
- ボールの内側半分に中指と親指が収まるように握る
- 薬指と中指の間は広げる
- 薬指だけ縫い目にかける
鷲掴みのような持ち方から、薬指と中指の間を広く開けた形になります。
このとき、ボールの内側半分(リリース時に利き腕とは逆側になる部分)に、親指と人差し指と中指が収まるようにしましょう。
こうすることでリリースのときに、中指と薬指の間からボールを抜きやすくなります。
オーバースローで投げるよりも、サイドスローやアンダースローのピッチャーの方がシンカーを投げやすいと言えるでしょう。
シンカーの投げ方
シンカーの握り方がわかったら、シンカーを投げるときのリリース方法についてもチェックしていきましょう。
- 中指と薬指の間からボールを抜く
- 中指で回転をかけるイメージ
- 腕の振りはストレートと同じ
- 手の甲の向きでシンカーの変化量や方向を変えられる
シンカーは中指と薬指の間からボールが出ていくので、少し投げるのが難しい部類に入ります。
リリースの瞬間は、最後に中指でボールをなでるような形になるので、中指だけ縫い目にかけておくことで回転がかかるわけです。
そして、シンカーのみならずほとんどの変化球に言えることですが、投球の基本であるストレートと腕の振りを変えないことが重要になります。
シンカーを曲げようという意識が強すぎて腕の振りが緩んでしまうと、かえって球威を落として打ちごろのボールになってしまうかもしれません。
また、手の甲を自分の顔に向けた状態でリリースするとシンカー方向の回転がかかりやすいです。
腕を無理に捻ると肘に負担がかかるので、投げやすい形を模索して練習を繰り返すことが重要ですね。
シンカーの軌道や変化とは
シンカーは、「利き腕方向に曲がりながら沈んでいく」という変化球です。
利き腕方向の変化と言えばシュートが代表的ですが、シュートが比較的真横の変化なのに対して、シンカーは少し沈みながら曲がっていきます。
球速は基本的には早くないものですが、メジャーリーグではハイスピードのシンカーを操る投手も存在しています。
しかし、これはツーシームと呼ばれることも多く、日本で言われているシンカーとは若干質の違うボールと言えるでしょう。
日本でいうシンカーは、ブレーキが利きながら徐々に斜め方向に落ちていくような軌道です。
利き腕方向に変化する変化球で、変化の大きい球種はあまりありません。
シンカーはその中でも大きく変化させることのできる球種なので、空振りを狙うための決め球として使われることが多いです。
硬式球よりも、軟式の方が投げやすいかもしれません。
利き腕の方向に変化するカーブの対角にある変化球ですが、カーブの逆バージョンかというと少し違います。
カーブのように一瞬浮き上がったりせず、リリースの瞬間はストレートと同じ軌道でありながら、減速しつつ沈んでいくのです。
シンカーの目的
シンカーの一番の目的は「空振りを奪う」「見逃しストライクを奪う」ということです。
要は、「決め球」になるということですね。
ウイニングショットになるほどのシンカーは、その切れ味から「魔球」と評されることもあります。
シンカー自体が比較的珍しい変化球なので、打者が目にする機会が少ないことも影響しているでしょう。
そういったシンカーはテレビ中継などで見ていても、独特な変化をしていて、打つのが困難であることがわかります。
変化量が大きい変化球は、空振りを奪うことが目的とされることが多いです。
シンカーももちろんそういった目的のために習得します。
ただ、右投手が左打者に対してシンカーを投げる場合、見逃しストライクを狙うことも出来ます。
インコースのボールゾーンからストライクに食い込むコースにシンカーを制球できれば、バッターが一瞬デッドボールと感じてしまう軌道からストライクが取れるでしょう。
バッターがボールを避けるような動作をしているのに、ストライクになるわけですから、まさに「魔球」ですね。
シンカーと似ている変化球
投げているピッチャーによって、変化球の呼び名は様々です。
一般的にシュートのような握りで投げている球でも、そのピッチャー自身が「シンカーです」と言えばそのボールはシンカーになります。
そういった前提も含めて、シンカーと似ている変化球との違いを整理しておきましょう。
シンカーとシュートの違い
シンカーとシュートの大きな違いは2点で、「変化の方向」と「球速」です。
シンカーは利き腕方向に曲がりつつ、縦方向にも大きく沈んでいきます。
対してシュートは、利き腕方向の変化ではあるものの、ほぼ横方向の変化です。
球速はシンカーの方が遅く、シュートの方は限りなくストレートに近いスピードになるでしょう。
習得の難易度は、シンカーの方が高いと言えます。
シンカーとツーシームの違い
シンカーとツーシームは変化の方向はほとんど一緒です。
利き腕方向への曲がりと、縦方向へ落ちるボールとなります。
何が違うかというと、「変化の幅」と「球速」です。
シンカーの方が変化の幅が大きく、ツーシームは第三者視点で見るとあまり変化しません。
球速はシンカーの方が遅く、ツーシームはほぼストレートと同じ球速で投げる変化球です。
シンカーは空振りを狙う球なのですが、ツーシームはバットの芯を外してゴロアウトを狙う変化球でもあります。
ツーシームは握りだけ変えて、ストレートと同じ腕の振りをするため、シンカーよりツーシームの方が投げやすいでしょう。
シンカーとスクリューの違い
シンカーとスクリューの違いはとても微妙で、投げる投手によって呼び名が様々なので明確な差は無いと言ってもいいかもしれません。
一説には「左投手が投げるシンカーがスクリューである」とする説明もありますが、実際は異なります。
あえてシンカーとスクリューの違いを文章で表すならば、曲がる軌道の違いです。
シンカーはストレートの軌道から斜めに沈んでいく軌道で、スクリューは一度浮き上がるような軌道から斜めに沈んでいきます。
スクリューはカーブの逆バージョンと思っても良いかもしれません。
ただ、プロ野球の西武ライオンズで活躍していた塩崎哲也さんのように、シンカーをスピード別に投げ分けていた選手もいます。
スピードが遅いシンカーは一度浮き上がるような軌道を描いているので、スクリューとシンカーは投げる投手の好みの呼び名で左右されるということでしょう。
シンカーが投げられないときのコツ
野球でピッチャーを任されていて新たな変化球を覚えようとするとき、初めから誰でも上手く投げられる変化球なんてありません。
まずは握り方から勉強して、投げ方を理解して、ノウハウを知ったらそれから練習していきます。
シンカーは特に投げる難易度が高い方に分類できるので、いきなり上手くは投げられない可能性が高いです。
そんなときにチェックする項目がいくつかあります。
- ボールを握る深さを変えてみる
- リリース時の手首の向きを変えてみる
- 縫い目にかける指を変えてみる
シンカーであってもストレートと同じように腕を振りぬいて、素早くフォロースルーしていくのは大前提です。
その上で、ボールを握る深さを変えるだけでもボールのスピードが変化します。
ボールを浅めに握った方がスピンをかけやすく、シンカーの曲がり幅も大きくなるでしょう。
逆にボールを深く握ると、スピンがかけにくくなり、ボールの前への推進力が失われてブレーキが利くようになります。
さらに、リリースするときの手首の向きによってシンカーの横方向への変化度合いが調節できます。
リリースするときに手のひらを外側に向けるように、手の甲を顔に向けるようにすると利き腕とは逆方向の回転がかかりやすいです。
逆に腕を捻らないように意識すれば、縦方向への変化の方が大きくなるでしょう。
基本は中指を縫い目にかけますが、親指を縫い目にかけてはじくように投げるやり方や、あえて全部の指を縫い目から外すのもアリです。
基本のシンカーの握り方から、すこしずつ指を移動するなどして工夫してみてください。
きっと自分に合った自己流のシンカーが投げられるようになるはずです。
シンカーの配球方法
シンカーのクオリティが高かったとしても、意図無く多投し続けていたら必ず見極められます。
そこで、シンカーの効果的な配球を考えてみましょう。
まず前提として、右投手対右打者の場合、または右投手対左打者の場合、シンカーが打者目線でどのように見えるか整理していきます。
- 右投手対右打者なら、インコースに食い込んでくる
- 右投手対左打者なら、アウトコースに逃げていく
左投手なら全て逆と考えてください。
右打者に対してはアウトコースに逃げ、左打者に対してはインコースに食い込むことになります。
一般的な理論でいえば、内側に食い込んでくるような変化球は打ちにくく、外に逃げていく変化球では空振りの確率が上がるはずです。
そう考えると、シンカーの目的をどう捉えて覚えたかによって、使いどころが変わってきます。
空振りを奪う球種として考えているなら、利き腕とは逆の打席にバッターがいるときに投げた方が良いです。
凡打を狙って詰まったボテボテのゴロを打たせることが目的なら、利き腕方向の打席にバッターがいるときに投げた方が良いということになります。
バックドアやフロントドアのコースにコントロール出来たら、かなり打ち取れる精度も高まるでしょう。
バックドアはバッター目線で「アウトコースのボールゾーンから外角ストライクにかする球」、フロントドアはバッター目線で「インコースのボールゾーンから内角ストライクにかする球」です。
パワプロなどの野球ゲームでシンカーを投げるときはこういった配球もやりやすいですが、現実はそう簡単ではありません。
練習が必要です。
ただ、そこまで緻密でなくとも、シンカーの変化量が大きければ、アバウトなコントロールでも構いません。
そもそもアマチュア野球界でも、シンカーを操る投手が少数派です。
珍しい球種ということになるので、バッターも初見ではそう簡単に捉えることは出来ないでしょう。
まとめ:シンカーはサイドスローが投げやすい
シンカーは利き腕方向にシュートしつつ、ブレーキが利いて落ちるという軌道を辿ります。
決め球にも使えて詰まらせた凡打にも使えるという、まさに現代の魔球に近い変化球です。
変化の軌道からみて、サイドスローの方が投げやすいと言えるでしょう。
しかしその分投手が試合で使えるレベルにもっていくまで難易度が高い球種でもあるため、十分な練習が必要になります。
中指と薬指の間から抜く投げ方をマスターしたら、ここぞの場面で使ってみてください。
他にも決め球やカウントを稼ぐ球になり得る変化球を取得できれば、先発ならエース、リリーフなら大魔神と呼ばれるクラスになれるかもしれません。