野球の守備位置の一つである「ファースト」
大まかなイメージとしては、体格が良くて足はあまり速くなく、パワーがあるような選手が守っているといったところでしょうか?
特にプロ野球などでは、あまり守備力は重要視されていない傾向があります。
しかし、内野ゴロでアウトを取るときには必ずファーストが絡んでくるはずです。
少年野球などでもそうですが、ファーストが平均以上の守備スキルを備えていないと試合になりません。
そこで今回は、野球のファーストの役割や、求められる能力についてご紹介していきます。
野球のファーストとは?
野球のファーストとは、1塁ベース付近を守るポジションのことです。
漢字表記にすると一塁手、英語表記にすると「First baseman」ということになります。
ポジションごとに割り振られている数字は「3」です。
高校野球までは、ファーストのレギュラー選手には背番号3番が与えられることが多いでしょう。
一般的には、足が遅くてもパワーがあって、どちらかというとバッティングの期待が大きな選手が守ることも多いです。
プロ野球では、他のポジションを守っていた打撃能力の高い選手が、年齢と共に現役晩年をファーストメインで過ごすというケースも少なくありません。(例:巨人の阿部慎之助選手)
ファーストの役割
ファーストは俊敏な動きができる選手を配置するイメージがあまりありませんが、よく考えれば大切なポジションです。
ファーストが上手くないと、試合がなりたちませんからね。
ファーストの最低限の役割を確認していきましょう。
- 内野手の送球を受ける
- 打球処理
- バント処理
- 牽制の処理
- バックホームの中継
- ピッチャーへの声掛け
内野手の送球を受ける
ファーストで最もボールを触る機会が多いのは、内野ゴロで送球を受けるときでしょう。
ちなみに長いプロ野球の歴史の中で、内野ゴロアウトが一度もなかった試合はたった一試合だけです。
むしろ1試合あったことの方が驚きですが、それだけ一塁手がボールに触れる機会は多いということですね。
サードでもショートでもセカンドでも、ピッチャーゴロでもキャッチャーのバント処理でも、ほとんどのケースでファースト送球になります。
こう考えると、アウトのほとんどに絡む一塁手は、やはり捕球能力の高さが重要になるということですね。
1塁ベース周辺の打球処理
ファーストの守備範囲は、1塁ベース付近になります。
定位置としては、ベースより少し後ろでライト線よりも2、3メートル程度内側に入ったところでしょうか。
セカンド方向に打球が飛んだ時には、ピッチャーがファーストベースのカバーに入ります。
逆にセカンド寄りの打球を深追いしすぎると、ベースカバーが誰も間に合わなくなる可能性があるので、他の内野手との連携が大切です。
当然1塁ベースが近いので、多少ゴロを弾いたとしても落ち着いて拾ってベースを踏めば間に合うケースも多いでしょう。
バント処理
ファーストを守る人が最も難しいと感じる瞬間が、バント処理の際に行われる投手と内野手との連携でしょう。
いわゆる「投内連携」というもので、バントの打球そのものを誰が捕りに行くのか、その際のベースカバーは誰がするのかなど綿密に練習しておく必要があります。
基本的にはファーストはバントの際に前方にダッシュしてプレッシャーをかけることになるので、バントシフトの際は打球処理に走ることになるでしょう。
牽制球の処理
ランナーが1塁にいる場合、基本的には一塁手もベースについて牽制球に備えます。
一塁手がベースについていないと、ランナーが余裕でリードを取れるからです。
しかし、ツーアウトのときや盗塁の危険性が限りなく少ないときなどは、定位置で守ることも多いです。
逆にあえて1塁ベースにつかず、ランナーを油断させて、投球後のキャッチャーからの牽制で刺す「ピックオフプレー」を行うこともあります。
バックホームの中継
ランナー2塁で外野の前にヒットを打たれたときには、外野手から捕手へのバックホームに備えてファーストが中継に入ります。
チームによってルールが決まっているはずですが、センター前ヒットとライト前ヒットでは、一塁手が中継に入ることが多いのではないでしょうか。
ライト前ヒットはもちろんですが、センター前ヒットもファーストがカットマンになる理由としては、セカンドベースをがら空きにしないためです。
例えば左中間寄りのヒットなら、遊撃手は打球を追っていますし、二塁手はセカンドベースのカバーに入りますからね。
投手への声掛け
ファーストはピッチャーに近いところに位置するポジションでもあります。
試合中は、ピッチャーに声をかけるなどして盛り立てていくことも大切です。
投手は特にメンタル面が重要なポジションでもありますから、思いっきり腕を振って投げてもらうためにもファーストの声掛けはマストになります。
ファーストに求められる能力や適性
ファーストのレギュラーになるためには、どのような力を身に着ければ良いのでしょうか?
ファーストに必要な能力について整理していきましょう。
- 確実な捕球能力
- 打撃力
- 精神的な安心感
これらが必要です。
やはり最も重要なのは、捕球能力になります。
内野ゴロでのアウトは野球の試合の中でも頻度が多いですから、確実にキャッチボールができる必要があります。
内野からの送球は常に取りやすい位置に来るわけではありません。
ハーフバウンドだったりショートバウンドだったりすることもあるので、送球動作に移行することは考えずにとにかくキャッチすることに重点を置きます。
難しいバウンドでもしっかりキャッチしてくれるファーストだと認識されれば、内野手はバッテリーも精神的に非常に安心できるでしょう。
野手が安心出来れば、送球も思い切って出来るので無用なエラーが減ります。
実は野手陣全体のエラー数を少なくするには、ファーストの捕球能力が大きく影響しているわけです。
記録上は他の野手に送球エラーがつくようなプレーでも、グローブが届く範囲ならしっかり止めてあげたいところですね。
そして、なんといってもファーストのレギュラーは「打ててナンボ」と言われます。
プロ野球では特に顕著ですが、チームでもクリーンナップ(3番4番5番)の打順を打つような打撃能力を有していることが重要です。
他の野手にバッティングで飛び抜けた存在がいれば別ですが、多くの場合はファーストを守っている選手が中軸になります。
一発長打が打てるような、大砲のような選手がファーストには必要です。
その分足の速さや小技を求められるようなポジションではないので、打撃重視と言っても良いかもしれません。
もちろん、最低限のキャッチボールが出来るということが前提ではありますが。
ファーストの練習方法
ファーストの守備が上達していないと、チームに大きな迷惑がかかります。
ファースト守備が上手くなるためには、どのような練習に時間を割けばいいのでしょうか?
- キャッチング練習
- ショートバウンドのキャッチ練習
- 投内連携
ディフェンス面で主に求められるのは上記の3つです。
キャッチングは、ファーストベースに片足をつけた状態で確実に捕球するために、回数をこなす必要があります。
ショートバウンドの捕球はファーストの必須能力なので、あえてショートバウンドを投げてもらって経験しておきましょう。
上手く捕るコツとしては、なるべく目線が届く前の方にグローブを出すことです。
顔を背けてしまうと、かえってキャッチすることが難しくなります。
最初は身体で止めればOKくらいの気持ちで、後ろに反らさない練習から始めましょう。
投内連携も、ピッチャーやセカンドなど周りの野手と声を変え合いながら何度も練習しておく必要があります。
特に横の動きに関しては、ファーストの場合は深追いしすぎないこともポイントです。
ある程度二塁手に任せるようにして、ベースを空けないことも考えておきましょう。
ファーストの動き方と構え方
ファーストには構え方が2種類あります。
通常の定位置で守る場合と、牽制に備える場合です。
まずは定位置の場合の構え方を見てみましょう。
このように、ランナーがいない場合はベースより少し後ろで2,3メートルファールゾーンから距離を取った位置に守ります。
頭から飛びつけば、ギリギリ一塁線に届くくらいの位置でしょうか。
自分の範囲に打球が飛んで来たら、キャッチしてベースカバーのピッチャーにトスするか、自分で一塁ベースを踏みに行きます。
他の内野手にゴロが転がったら、急いで一塁ベースに足を着けて送球を待つのです。
続いて1塁ランナーがいるときの構え方を見てみましょう。
このように、ランナーがいるときにはベースについて牽制を待ちます。
ピッチャーがセットポジションに入っている間は、いつ牽制が来ても良いように準備しておきましょう。
ピッチャーが投球モーションに入ったら、ベースの真横くらいに出て打球に備えます。
バッターが打たなかった場合、すぐさまキャッチャーから送球があってピックオフプレーになることがあるので、すぐ1塁ベースに戻れるようにしておきましょう。
ファーストの特徴
ファーストは打撃にステータスが偏った選手が守るようなイメージもあるかもしれませんが、どのような特徴があるのかまとめておきましょう。
- ファーストミットで守る
- サードもこなせる選手が多い
- 打撃特化型の選手が多い
ファーストの大きな特徴と言えば、一塁手専用の「ファーストミット」が存在しているという点です。
ファーストミットを着用して、他のポジションを守ることは出来ません。
専用のミットが存在しているのは、キャッチャーとファーストだけです。
ファーストが他の野手と同じ通常のグラブを使用することは認められているので、ファーストを守る際は「グラブ」か「ファーストミット」のどちらかを使うことになります。
ファーストミットは他の野手が使うグラブと違って、少し大きい形状です。
ポケットと呼ばれるボールの捕球面が懐深く出来ているので、捕球の確実性アップに特化したグローブと言えます。
そして、ファーストを守れる選手はサードもこなすことが多いです。
プロ野球選手でいえば、西武ライオンズの山川穂高選手や、巨人の岡本和真選手、近鉄バファローズや中日ドラゴンズでも活躍した中村紀洋選手、日本ハムファイターズや読売ジャイアンツで活躍した小笠原道大選手が代表的です。
サードとファーストは動き方が似ていますし、守備の負担は同じくらいと考えられているので、両ポジションを兼任しているケースも多いわけですね。
更に、これらの選手に共通していることと言えば、バッティング面での貢献度が非常に高いということです。
山川穂高選手は本塁打王を取っていますし、岡本選手も3割30本100打点をクリアするような選手です。
中村紀洋は、タイトルだけでなく通算400本以上のホームランを放っています。
小笠原道大選手も、3部門の打撃タイトル(首位打者・本塁打王・打点王)経験に加えて両リーグでMVPを獲得したほどの大打者です。
やはり守備能力の高さというよりも、他の人よりも圧倒的に優れた打撃力を活かしてファーストを守っているという印象が強いですね。
ファーストが知っておくべきルール
ファーストをそつなくこなす上では、しっかり理解しておかなければならない野球のルールがいくつかあります。
今一度、頭の中を整理しておきましょう。
振り逃げ
振り逃げは、ランナーが1塁にいない状況ならいつでも発生し得ます。
そして、ツーアウトの場合はランナーが1塁にいても振り逃げが可能です。
- ランナーが1塁にいない
- ツーアウトならランナー関係なく可能
ファーストは、振り逃げができるこの2つの条件を頭に入れておかなければなりません。
例え満塁であったとしても、ツーアウトならバッターの振り逃げが起こる可能性があります。
三振だと思ってベンチに帰ろうとして、キャッチャーから送球が来て捕球できなかった場合、無駄なランナーを出してしまうことになりますから注意ですね。
インフィールドフライ
インフィールドフライは、ツーアウト以外の状況でランナーが1塁にいる状況なら他のランナーに関係なく起こり得ます。
普通に守備行為をすれば捕球できるとされる内野フライに対して、インフィールドフライが宣告されます。
ポイントは、インフィールドフライの後もインプレーということです。
インフィールドフライが宣告されるとボールデッドと勘違いしてしまいそうな空気感になりますが、実際はそうではないので注意した方が良いでしょう。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
タッチアップ
ランナーが3塁にいて、犠牲フライになりそうなタッチアップのときはファーストが中継に入らなければいけない場面が発生します。
また、内野フライでタッチアップをされるケースもあることを頭にいれておきましょう。
例えばランナー2塁で、1塁後方のファールゾーンにフライが上がった場合です。
もしノーアウトかワンアウトなら、ファールフライであってもキャッチした時点でランナーはタッチアップが可能になります。
ファールゾーンの深い位置でギリギリキャッチしたようなフライであれば、2塁ランナーが3塁にタッチアップする可能性もあるのです。
ローカルルール
グラウンドルールと表現されることもありますが、草野球や少年野球などで試合をする場合、野球場以外の場所で開催されることもあります。
その際、1塁後方の植木にボールが入った場合はエンタイトルになるのかなど、試合前に審判の話を聞いて確認しておいた方が良いです。
ボールデッドなのかインプレーなのか、審判のジャッジがあるまでは全力でプレーするべきですね。
オーバーラン
1塁駆け抜けの場合、そのまま1塁ベースを踏んでファールゾーン内に駆け抜けることが認められています。
しかし、ランナーが2塁に行こうという意思表示や行動を見せた時点でオーバーランの権利が無くなるので、その場合はすぐタッチに行くべきです。
例えば野手の送球が反れてファールゾーンにボールが転々としているとき、ランナーはそれを見てすぐに2塁への進塁を狙います。
その際にカバーリングをしていた野手がすぐにボールを拾うことが出来た場合、バッターランナーをタッチすればアウトに出来るのです。
ファーストがこれを理解していないと、アウトを一つ逃してしまうことになりかねませんからね。
ファーストの野球選手
ここまで野球のファーストというポジションについて様々ご紹介してきましたが、実際にファーストを主戦場としている野球選手を見れば、どのようなイメージがわかりやすいと思います。
中田翔
日本ハムファイターズの不動の4番中田翔選手です。
入団当初は、三塁手の練習もしていました。
数年前までは外野手としても強肩を活かして相手チームの脅威となっていましたが、近年は4番ファーストが定位置です。
打率はそこまで高くないものの、ここぞというチャンスでのホームランと打点が期待できる勝負強さを持った選手でもあります。
体格も風格もあり、まさにプロ野球のファーストのイメージそのものと言えるでしょう。
山川穂高
西武ライオンズで2年連続40本塁打を達成した山川穂高選手です。
日本人選手でこれだけホームランを量産できるのは、近年でも稀に見る大砲ですね。
体格の割に足が遅いわけではないのですが、ファーストが定位置となっています。
中田翔選手と同じく、打率よりも本塁打と打点に期待を置ける一塁手の代表的な選手です。
ホセロペス
3割30本を記録したこともある攻撃力はもちろんですが、1623守備機会無失策という日本記録保持者でもあります。
平均以上のバッティングと、群を抜いて安定感のある守備力を併せ持っているということで、理想的な一塁手かもしれませんね。
李承燁(イスンヨプ)
韓国リーグでシーズン56本塁打を記録し、日本でも同一シーズンで3割40本100打点という堂々たる成績を残しました。
誰もが知るバッティング技術はもちろんのこと、実はホセロペス選手に抜かれるまでセリーグの一塁手連続無失策記録を持っていたのは李承燁選手だったのです。
アジアを代表する打撃力と、世界レベルの守備力を併せ持ったこちらも理想的なファーストの一人ですね。
ミゲルカブレラ
メジャーリーグで2012年に45年ぶりの三冠王を達成し、2020年現在現役唯一の三冠王経験者となっているミゲルカブレラ選手です。
デトロイトタイガースに所属していて、何度かコンバートはあったものの一塁手としての出場が最多となっています。
打撃力はもちろん、守備でもゴールデングラブ賞に名前が上がるほどの実力を兼ね備えていました。
メジャー最強の打撃と、一流クラスの守備力を持っていた全盛期の彼こそが最強のファーストかもしれませんね。
まとめ:ファーストは守備と打撃どちらも必要
ファーストは一見するとあまり守備に比重を置いていない選手でも守れそうに思えますが、実はそうではありません。
ファーストの確固たるレギュラーになるためには、人並み以上の守備力とトップクラスの打撃力が必要であるということです。
盗塁やバントなど小技に秀でた選手のポジションという印象ではありませんが、チームにとってなくてはならない存在が守るポジションということですね。