野球の盗塁は、ホームランと同じくらい価値があるという選手もいます。
確かに、盗塁を決めると攻撃側のベンチは異様に盛り上がりますよね。
逆に盗塁を決められた守備側は、落胆と共にピンチ拡大の緊張感を与えられることになります。
それだけ盗塁というのは、両チームに与える影響が大きいということですね。
しかし、盗塁というと、足が速いプレーヤーしか成功できないと思っていませんか?
実はそんなことはなく、盗塁の重要なコツさえ掴めばだれでも成功できます。
そこで今回は、盗塁成功のために必要なコツについて紹介していくことにしましょう。
盗塁のルール
盗塁を詳しく見ていく前に、まずは盗塁のルールについても触れておきます。
盗塁を野球規則に則って説明すると
「走者が、安打・刺殺・失策・封殺・野選・捕逸・暴投・ボークによらず、1つ塁を進んだとき」
という文章になります。
要は、ランナーが自分の力だけで1つ先の塁を陥れたときに盗塁になるということですね。
盗塁を成功させるコツ
盗塁を成功させるには、足が速いに越したことはありませんが、それ以上に大切なコツがあります。
- リードの取り方
- ピッチャーの観察の仕方
- スタート時の姿勢
- スライディングのやり方
この4つの項目に分けて、盗塁のコツを見ていきましょう。
リードの取り方
リードの大きさは人それぞれですが、大きく取れるのであればその方が良いです。
単純に2塁までの走行距離が短くできるという点と、牽制をもらいやすいという点でメリットがあるからです。
盗塁を成功させるには、ピッチャーがホームに投げるタイミングを見計る必要があります。
セットポジションに入ってから投球動作に入るまでの間隔のクセを見極めるために、あえて牽制をもらう必要があるのです。
そして、リードしたときの体重のかけかたは、左右の足で50:50が望ましいでしょう。
姿勢は低くしすぎず、軽く膝と股関節を曲げたくらいがベストです。
あまり姿勢を低くしすぎると、足の筋肉が緊張してスムーズなスタートが切れません。
まずは走塁練習で、牽制で戻れないくらいの距離までリードを取ってみてください。
意外と、自分がどの距離までリードが出来るのか知らない選手も多いです。
一度限界を見極めて、ギリギリまでリードを取れれば盗塁の成功率はグッと上がります。
ピッチャーの観察方法
牽制するのか、ホームに投げるのか、そのときによってピッチャーの動作は微妙に変わってきます。
重心の倒れる方向などで判断することになりますが、ピッチャーの動きを良く観察しなければなりません。
そのときのコツとしては、「一点を見るのではなく全体的にぼんやり見る」ということです。
軸足やグローブなど、どこか一点に集中してピッチャーの所作を見ているとかえって緊張します。
それよりもピッチャーの動きを全体的に捉え、感覚的に見ておいた方が楽にスタートが切れるのです。
スタート時の姿勢
盗塁のスタートを切る際には、体勢を起こさずに前傾姿勢で走り出すことが大切です。
スタートと同時に上体が浮いてしまうと、上手くスピードに乗れません。
左足の股関節を内旋させて、最初の2歩くらいは上半身が横向きのままスタートするつもりで走り出します。
すぐにセカンドベースを見てしまうと体が浮き上がってしまうので、足元を見ながら前傾姿勢を保ちつつスタートしましょう。
スライディングのやり方
盗塁の成否を分けるもう一つの重要な項目として、スライディングの上手さもあります。
スライディングで勢いが減速してしまうと、盗塁の成功率は一気に下がるでしょう。
いかに走ってきた勢いを殺さずにスライディングできるかがカギです。
盗塁の場合は、ベースに近いところでスライディングを始めるのもコツになります。
お尻で滑るというよりも、膝だけで滑る感じでベースに飛び込むようにすると上手くいくでしょう。
西武ライオンズ時代の片岡易之選手の盗塁を参考にしてみてください。
盗塁を成功させるために重要なこと
盗塁を成功させるために最も重要なことは、大きく分けて4つあります。
- スタートの良さ
- ピッチャーの投球フォームの観察
- ストライクよりもボールの方が走りやすい
- どこを見て走るか
この4つです。
投球フォームを盗む
盗塁と言うと、キャッチャーの肩がクローズアップされがちですが、実はキャッチャーの肩がどんなに良くてもピッチャーの投球フォームを盗んでいれば余裕でセーフになれます。
ですから、相手チームの投球練習の最後に行われるセカンド送球で、相手捕手がとてつもなく速い矢のような送球をしていても臆することはありません。
投手の投球間隔の取り方やクイックモーションのスキルによっては、十分盗塁できる隙が見つけられるのです。
また、単に足の速い選手だけが盗塁の成功率が高いというわけではありません。
かつて飯島秀雄さんという短距離の陸上選手がプロ野球の球団に入団したこともありましたが、思ったほど盗塁の成功を残せず(通算盗塁成功23、盗塁死17)に引退したことがありました。
かつて100メートル走の日本記録を持っていたほどの選手ですから、当然トップスピードの速さは群を抜いています。
そんな脚力をもってしても、成功率は5割を少し超えるほどでしたから、期待ほど盗塁数を稼げたとは言えません。
日本のプロ野球界のトップ選手の盗塁成功率が8割を超えることを考えれば、盗塁成功に必要なのは足の速さだけではないということは明らかです。
スタートのタイミングが大切
盗塁に必要な要素として、各要素の頭文字をとって「3つのS」を言われることがあります。
スタート、スピード、スライディングの3つです。
前述の飯島秀雄さんは、そのうちの一つであるスピードについては申し分ない実績を持っています。
ところが、盗塁成功のためには他のスタートとスライディングという2つの要素も満たしていないといけません。
その中でも最も重要なことが、「スタート」なのです。
タイミング良くスタートを切ることと、思い切りよくスタートを切ること、スタートからすぐにトップスピードに乗れることが求められます。
逆に言えば、さほど足の速さ(スピード)に自信が無くても、スタートの良さで盗塁成功率は一気にアップさせることが出来るというわけですね。
1塁から2塁までの距離は27.431メートルですから、100メートル走ほどのタイム差は出ません。
そのため、スタートの良さが盗塁成功のカギを握るということです。
ストライクよりもボールで走る
カウントや配球がある程度読めるようであれば、できればストライクよりもボール球が来る確率の高いタイミングで盗塁をしたいところです。
大きく逸れるボール球の方が、キャッチャーの送球に時間がかかりやすいからです。
特に、変化球が投げられそうなタイミングを見計らうと良いでしょう。
どこを見て走るかも重要
盗塁の際、スタートを切った後に次の塁だけを見て全力ダッシュしてしまいがちです。
そうではなく、投球がキャッチャーミットに入る瞬間は見ておいた方が良いでしょう。
バッターが打つ可能性もありますし、キャッチャーがボールの捕球ミスをしているケースもあります。
盗塁のスタートを上達させる方法
盗塁でかなり重要なコツが、良いスタートを切ることだとご紹介してきました。
では、盗塁のスタートに絞って上達させるにはどのような心構えが必要なのでしょうか?
- 偽走する
- タイミングを数える
- 投手の癖を共有する
- 失敗を否定しない
以上の4つのことが非常に重要です。
まず、盗塁を実際にしない場合でも、偽走といってスタートの真似事をすることも練習になります。
リードを取り、ピッチャーがホームへ投球する動作を取ったら2,3歩本当にスタートを切るのです。
これを行うだけでも、盗塁のスタートの練習になる上に、相手バッテリーにプレッシャーを与えることが出来ます。
そしてベンチにいるときには、味方にランナーが出たらピッチャーが投球動作を始動するまでのタイミングを計っておきましょう。
セットポジションに入ってから心の中で「1・2・3…」とカウントを行い、ホームに投げるまでのタイミングを計ります。
ピッチャーによっては、「何秒以上経過したら必ずホームに投げる」とか「2秒で始動したら必ず牽制が来る」とか、一見気づきにくい癖を持っていることがあるのです。
そしてその癖がわかったら、チームで共有しておきましょう。
誰でもスタートが切れる状況にしておけば、相手バッテリーへの負担は計り知れません。
もし盗塁を失敗したとしても、その選手を責めない風土づくりも大切です。
盗塁には思い切りの良さも必要なので、果敢に挑戦しやすい雰囲気を作っておくことも重要になります。
攻めた走塁の結果アウトになっても、それは責めずに次に活かしましょう。
盗塁のスタートを上手くする練習方法
盗塁のスタートの良さを磨くために、普段の練習に取り入れられるメニューを二つ紹介していきます。
- 反応トレーニング
- 坂道ダッシュ(下り坂)
反応トレーニング
コーチを一人決め、ランナーと正対してください。
ランナーはその場で軽く足を開いてできるだけ素早く足踏みを繰り返します。
コーチ役の人が右手を挙げたら左側へスタート、左手を挙げたら右側へスタートして、数歩だけ全力で走りましょう。
これを繰り返すことで、他人の動作に反応して素早く体を動かす練習になります。
盗塁ではピッチャーのモーションに反応してスタートを切ることになるので、その感覚を養うのです。
下り坂ダッシュ
盗塁のスタートの要領で、緩い下り坂を駆け降りる練習も効果的です。
緩い下り坂を使うことで、左足から右足の方へ一気に重心を移動させて素早く盗塁のスタートを切る身体の使い方が身につきます。
あまり傾斜がキツいと怪我の元になりますし、短い距離のダッシュを繰り返すのが良いです。
練習前のアップなどに、盗塁スタートのメニューを取り入れてみてください。
盗塁のスタートの仕方2種類
盗塁は、その状況によって2種類のスタートの仕方があります。
特に二盗の場合は、ピッチャーのモーションやキャッチャーの動き方によって使い分けると成功率も上がるでしょう。
- 通常の盗塁
- ディレードスチール
通常の盗塁
通常の盗塁は、ピッチャーがホームベースに向かって投げ込むモーションが始動するタイミングでスタートをします。
投球フォームのモーションを完全に読んでいるときや、バッテリーが盗塁をある程度警戒しているときはこのスタート方法の方が有効です。
大半の盗塁はこのような形になるでしょう。
少しでもスタートが遅れたり、ピッチャーのクイックモーションが速い上にキャッチャーの肩が素晴らしいときはアウトになることもあります。
ディレードスチール
ディレードスチールは、ピッチャーが投げたボールがキャッチャーのミットに収まった瞬間にスタートを切ります。
ディレードスチールが有効なタイミングは
- 盗塁をほとんど警戒されていないとき
- キャッチャーの返球が緩いとき
- ピッチャーのクイックが上手いとき
といった場面です。
キャッチャーミットに入ってからなので、通常の盗塁よりもかなり走り出すタイミングが遅くなります。
そのため、相手キャッチャーは盗塁だと気づかないこともあるでしょう。
また、二塁手や遊撃手のベースカバーが遅れることもあるので、適切な場面で行うとかなり成功率は高くなります。
相手は通常の盗塁しか警戒しないので、ピッチャーがモーションに入った瞬間にスタートしていなければ、盗塁の可能性を頭から消してしまうものです。
その一瞬の隙をつくのが、ディレードスチールの醍醐味でもあります。
意外と俊足とは言えない選手の方が、成功するかもしれません。
盗塁がもたらすメリット
盗塁は野球の重要な戦術ですが、一体どんなメリットを求めてサインを出すのでしょうか?
- チャンスを拡大する
- 守備陣へプレッシャーをかける
- バッターへの集中力を削ぐ
主にこの3つです。
やはり盗塁最大の目的は、チャンスの拡大になります。
それが例えエラーやフォアボールで出たランナーだとしても、二盗すればツーベースヒットを同じです。
ノーヒットで得点圏にランナーを進めることができる作戦でもあるので、盗塁が出来る選手というのはどのチームも重宝します。
また、一度でも盗塁を成功させる、または仕掛けることで相手守備陣にプレッシャーを与えることが出来ます。
それが試合の序盤なら、「このチームは積極的に走ってくるチームだ」という印象を植え付けることもできますから、心理的にも優位に立てるでしょう。
バッテリーとしてはランナーへの警戒にも苦心しなければならないので、その分バッターへの集中力が削がれる可能性もあります。
盗塁を刺したいがためにストレート系の配球に偏れば、バッターも読みやすくなってヒットを打てる確率も上がるはずです。
まとめ:盗塁のコツはスタートにあり
盗塁で走らなければならないのは、フルでも27メートル程度です。
その上、リードを取っていれば走る距離はもっと少なくなります。
ですから、短距離走の速い選手ほど盗塁の成功率が高いという風に単純には結び付けられません。
ピッチャーの癖を盗み、早い段階でトップスピードに乗れるようなスタートを切れる選手が盗塁を成功させられるのです。
足が遅いからといって盗塁を諦めることはないので、ピッチャーの投球フォームをよく観察して隙を見つけて攻め込みましょう!