スローカーブは野球の素人からすると、一見打ちやすそうなボールに見えますよね。
当然ですが、投球のスピードは速い方がバッターもボールの見極めが難しくなります。
大半のピッチャーは、ストレートの速度を求めて練習を積み重ねるわけです。
しかし、スローカーブは「遅い」ということに価値があるという、なんだか矛盾した変化球ですよね。
そこで今回は、「スローカーブ」について、その投げ方や握り方、習得することの意味について紹介していきます。
スローカーブとは
スローカーブは、変化球の基本である通常の「カーブ」よりも、さらにスピードが遅く緩い変化球です。
遅いボールは、投手の手からボールが離れてキャッチャーミットに到達するまで時間がかかりますから、バッターにとってもコンタクトしやすい球と言えます。
しかしこのスローカーブは、あえてストレートとの球速差を大きくすることで、その威力を発揮するというちょっと珍しい変化球です。
アマチュア野球界のピッチャーでスローカーブを得意球としている選手は少ないかもしれません。
プロ野球でもスローカーブを駆使して活躍している投手はあまり多く無いですが、一流ピッチャーは持ち球にしているケースがあります。
野球ファンの間で、スローカーブといえば真っ先に名前が挙がるのが星野伸之さんでしょう。
星野選手の場合は、ストレートの最速がそもそも130㎞程度と、プロ野球選手の中ではかなり遅い部類に入ります。
しかし、70㎞や80㎞台を記録したこともあったと言われるスローカーブを武器にして、長い間活躍した投手です。
150㎞近いボールをホームランにできるプロの打者を相手に、100㎞にも満たないスローカーブで三振を奪えるわけですから、非常に夢のある変化球ですよね。
アマチュア野球でも、甲子園の場で話題になったスローカーブの使い手がいます。
当時、東海大四高のエースだった西嶋亮太さんです。
甲子園と言えば高校野球の全国大会ですから、その年代のトップクラスの実力を持った球児たちが相手です。
その場でもスローカーブを使って勝ち上がれるわけですから、バッターにとっては厄介な変化球なのかもしれません。
スローカーブの変化の軌道
スローカーブの軌道は、一度浮き上がってから曲がってくる軌道です。
利き腕とは逆方向に徐々に曲がりなら、沈んでいくような変化球ですね。
大まかな軌道は通常のカーブと同じですが、スローカーブの方が球速が遅い分、マウンドとホームベースの間で滞空時間も長くなります。
それだけ変化する時間もあるので、結果的にスローカーブの方が変化の幅は大きくなるでしょう。
球速が何㎞以下ならスローカーブとか、ストレートとの球速差が何キロ以上とか、スローカーブとカーブの間に明確な定義があるわけではありません。
投げているピッチャー自身が「スローカーブ」と言ってしまえばその球はスローカーブになります。
一般的には、そもそもストレートの球速もあまり速くない投手が投げているカーブをスローカーブと呼ぶことが多いかもしれません。
または、普段は剛速球を投げているピッチャーが、たまに投じるかなり緩いカーブ系の変化球をスローカーブと表現することがあります。
スローカーブを投げる目的
スローカーブを投げる目的として挙げられるのは「打者のタイミングを外す」「空振りを奪う」ということです。
バッターの打ち損じを狙うというよりは、見逃しか空振りでストライクを取るという目的の方が大きいでしょう。
さらに、タイミングを狂わせることで、その後の投球を有利にするという目的も持っています。
スローカーブは遅いので、立て続けに投げ続けていると、当然バッターも目が慣れてきて捉えられます。
特にプロ野球などレベルが上の方になってくれば、遅い球ならバッターの想定外だったとしても対応してくる場合もあるでしょう。
ですから、ストレートやスライダーなど、速球系の球種を投げる合間に、スローカーブを織り交ぜて打者を幻惑するのです。
この際に最速球との球速差が大きいほど、バッターにとってはその後のタイミングが取りにくくなります。
130㎞のストレートだったとしても、100㎞にも満たないスローカーブの直後では、150㎞近くにも見えるかもしれません。
当然、普通のカーブよりも変化量が大きいので、単純に空振りを狙うことも可能です。
そのため、決め球としてスローカーブを操っている投手もいます。
ただスローカーブの場合は、それ自体で空振りが取れなくても全く問題ありません。
相手打線に「スローカーブがあるぞ」と思わせるだけで、ストレートに絞って狙いを定めることも出来なくなりますし、気持ちに迷いが生じ始めます。
そうなったら、バッテリーとしては気持ち的にも優位に立てるでしょう。
極端な話、スローカーブに目が慣れてきたところでストレートをズバッと投げられたら、とてもついていけないですよね。
スローカーブが得意なプロ野球選手
前述の星野伸之さん以外にも、スローカーブを得意としているプロ野球選手もいます。
例えばメジャーリーグで活躍しているダルビッシュ有投手もその一人です。
ダルビッシュ投手は言うまでもなく、160㎞近いストレートを投げる本格派のピッチャーです。
そんな彼も、剛速球だけでなく時折スローカーブを混ぜる配球を見せます。
それもフォームで明らかにスローカーブを投げるということがわかるわけでもないので、バッターにとっては非常に困る球種です。
OBでも、中日ドラゴンズで活躍した今中慎二さんも有名なスローカーブの達人です。
今中さんは140㎞台後半のストレートを投げられる力がありますが、決め球は100㎞台のスローカーブでした。
投球フォームもストレートのときとスローカーブのときでほとんど違いがなく、見極めは難しいです。
平成から令和に入って活躍している選手でも、西武ライオンズや楽天イーグルスで活躍している岸孝之投手がスローカーブの使い手と言えます。
近代の野球では緩い変化球よりも、スライダーやカットボールなどのストレート系に近い変化球です。
または、肩や肘に負担が少ないと言われる、チェンジアップも多くの投手が投げるようになりました。
他にもかなり細かな変化をするツーシームなど、明らかにわかる大きな変化球よりも、打者の手元で微妙に動くような変化球が全盛の時代でもあります。
そんな時代に、カーブという昔からある基本の変化球の価値を、再度野球界全体に認知させたのが岸孝之投手です。
カットボールやツーシームなど速球系の変化球に慣れてきた打者たちにとって、久しぶりに現れたスローカーブの使い手には手を焼いています。
現に、ライオンズでもイーグルスでもエースとして活躍していて、日本代表にも選ばれるほどですから。
スローカーブのように緩い変化球でも、上手く使えば魔球のように三振を山のように奪えるということですね。
スローカーブの握り方
スローカーブの握り方は通常のカーブに近いですが、少しポイントがあります。
スローカーブの握り方にはいくつか種類があるので、3つ紹介していきましょう。
- 人差し指を縫い目にかける
- 中指は指先だけ縫い目にかける
- 2本の指は揃えてくっつける
- 親指は中指の真下に置く
これは、ダルビッシュ有投手も行っているスローカーブの握り方です。
人差し指をしっかり指にかけ、中指を指先だけ縫い目にかけるのがポイントとなります。
薬指や親指は縫い目にはかけません。
両方の指をかけて若干ボールの外側にずらすことで、スローカーブの回転をかけやすくしています。
ボールのスピードを抑えることと、スピンをかけて変化量を大きくすること、さらにコントロールを安定させることを考えると、とてもバランスの良いスローカーブの握り方と言えますね。
2つ目の握り方も見ていきましょう。
- 中指を縫い目にかける
- 人差し指は浮かせる
- 親指はボールの下に置く
人差し指を浮かせて使わないようにする、スローカーブの握り方です。
親指と中指の2本でボールを挟むことになります。
これだとボールが手から抜けやすく、スローカーブ独特の山なりの軌道を再現しやすいです。
バッターにとっては一度目線が上がってから下がることになるので、上手くハマればタイミングも感覚もズレを発生させることが出来るでしょう。
コントロールを安定させるのが難しいスローカーブの握り方でもあります。
3つ目のスローカーブの握り方も見ていきましょう。
- 人差し指を縫い目に沿わせてかける
- 中指は人差し指の下に軽く添える
- 親指を人差し指の対角線上に置く
このスローカーブの握り方では、人差し指と親指の2本でボールを挟むことになります。
ボールの上半分が完全に手からはみ出る形になるので、スローカーブに大切な一度浮き上がる軌道を再現しやすいでしょう。
かなりボールのスピードも抑えられるので、ストレートとの球速差も大きくなります。
リリースの際に真上に抜けるような感覚になるので、ホームベースに到達することには上から降ってくるようなイメージです。
制球は難しいので、練習が必要ですね。
ただ、スローカーブ独特の、ボールを手から抜くようなリリース感覚を最も掴みやすい握り方と言えるでしょう。
スローカーブの投げ方
スローカーブを上達させるには、握り方だけでなく投げ方にもポイントがあります。
- リリースでボールが上から抜けるように
- リリースの瞬間は小指側を下に向ける
- 手首のスナップは使わない
スローカーブの投げ方では、リリースが大きなポイントです。
スローカーブは軌道的に、一度浮き上がって山なりの軌道を描きながらキャッチャーミットに収まります。
頭より高く上がるのに、ホームに着くころにはワンバウンドしていることもあるでしょう。
そのため、ストレートやスライダーなど他の変化球のように、ボールを押し出すようなリリースはしません。
また、スローカーブのリリースでは小指側を下に向けながら行うと、良い回転がかかりやすいです。
それだけでなく、手の甲をキャッチャー側に向けながらリリースするやり方もあります。
プロ野球でのスローカーブの使い手は、手の甲を相手に向けたままリリースしているピッチャーも多いです。
その際に手首のスナップは使わずに、スローカーブの握りと手首の向きでリリースを制御します。
腕を無理に捻るとかえってスローカーブに適した回転がかかりにくいですし、肘に余計なダメージを与えてしまうことになりかねません。
できるだけ少ない負担で、大きな変化をさせられるようにピッチング練習を繰り返していきましょう。
スローカーブを投げるときのコツ
スローカーブの握り方と投げ方を見てきましたが、それでも上手くいかないときはいくつかのコツを確認しておきましょう。
- ボールの握る深さを変える
- 力を入れてボールを握らない
- リリースが頭の真上になるイメージ
- 腕をしっかり振る
ボールを握る深さを変えるだけで、スローカーブの回転量が調節できます。
基本は浅く握る方が回転がかけやすく、深く握るとスピードが抑えられやすいです。
スローカーブの場合は握り方がすでにスピードが出にくい形なので、浅く握って回転数を増やすことを心がけた方が良いでしょう。
スローカーブの握り方ではボールが変なところで抜けてしまうような不安定感があるので、ボールを強くギュッと握りがちです。
力を入れすぎると上手くボールが抜けないので、スローカーブを投げる際は指先に力を入れすぎないようにします。
通常の投球ではリリースポイントは身体の前になりますが、スローカーブではそれよりもかなり高い位置になるはずです。
そのあたりも他の球種とは全く異なるので、意外に習得が難しい変化球なのですね。
また、腕をしっかり振った方がスローカーブの威力もアップします。
ストレートに近い腕の振りでスローカーブが繰り出せれば、その分バッターも戸惑うはずですから。
まとめ
スローカーブは、ただのスローボールではありませんでしたね。
三振を狙う決め球にも成れれば、バッターのタイミングを外す見せ球にも成り得る。
上手くコントロールが出来れば投球の幅がかなり広がる変化球です。
リリースの際に手の上から抜くような形になる分、制球は難しいですが、扱っている投手が少ないためバッターも戸惑いが大きい変化球でもあります。
速い直球を追い求めるだけでなく、スローカーブのような遅い魔球も覚えて、難攻不落のピッチャーを目指しましょう!
その際に、スローカーブと全く質の違う変化球なども投げられると、かなり便利ですよ。
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